Dr. Matt Shenton


植物表面における外界とのコミュニケーション法を理解する

質問1 現在されている研究について、教えてください。

柱頭と花粉の相互作用や花粉管が子房へ伸びていく様子を観察するために、イネと野生イネ間の異種間受粉を利用して、研究に取り組んでいます。

花粉と柱頭の相互作用において、「柱頭はどのようにして正しい花粉を認知するか?」を課題にしています。「これは花粉なのか?」さらに「これは正し い花粉なのか?」花粉が柱頭のなかに花粉管を伸ばしたとき、花粉管はどのようにして管を伸ばしていくべき場所を知るのでしょう。それはコミュニケーション の問題なのです。柱頭が花粉を認知し、花粉が柱頭を認知する。その認知や誘導のメカニズム、どのように花粉管が雌蕊の中で正しいルートを見つけていくの か、を解明したいと思っています。イネの内部では、我々の知らないことがたくさん起きています。

こうした相互作用を観察するシステムとして、イネや野生イネを利用しています。野生種と栽培種における異種間授粉時の花粉管の伸長を観察し、花粉管 の伸長に障壁‐花粉管の花粉と雌蕊が異種の場合、花粉管が伸長できなかった場所-があることを識別しました。伸長が妨げられたということは、花粉と雌蘂間 のコミュニケーション‐や認知に失敗したということです。もしかしたら、その場所に花粉管を誘導したり認知したりするメカニズムがあり、花粉と雌蕊が異種 のときには、そのメカニズムが機能しないのかもしれません。

fig Oryza sativaの花粉はOryza punctataの雌蕊中の柱頭を通ることができませんでした。Oryza officinalisの雌蕊ではOryza sativaの花粉管が柱頭を通って伸長したものの、やがて花柱の中で伸長が止まってしまいました。時には、管がふくらんだり、分岐してしまうものもあります。

Oryza sativaOryza officinalisという二つの種から柱頭、花柱、そして雌蕊のRNAを準備しました。もし二種間の異なる柱頭の遺伝子発現を比較することができたら、イネにおける花粉‐雌蕊の相互作用の制御に関わりがありそうな遺伝子を見つけられる可能性があります。

その可能性を秘めた遺伝子は、小型でシステインリッチなタンパク質です。この種の遺伝子の多くが植物の生殖組織の中に発現することは、以前から注目 されていました。これらの遺伝子によりコード化されたいくつかのタンパク質が、種によっては花粉‐雌蕊の相互作用にとって、重要なものであると見られてい ます。とりわけ、多くのタンパク質が防御に関わる構造‐植物の免疫システムの構成要素と似ています。

実際、免疫システムと生殖システムは似たような特性- 不適切な種からの花粉や侵略を企てる病原体を認知し、拒絶しなければならない‐を持っています。つまりどちらの場合においても、認知システムが似通ってい ることは別段驚きではなく、恐らく共通の進化的起源を持っており、構成要素さえも共有している可能性があると言えるでしょう。

こういった理由から、入手できるOryzaゲノムを利用して、小型の分泌タンパクであるシステインリッチなタンパク質の幅広い調査を 行っています。これらの小さなタンパク質の進化は、興味深いです。植物ゲノムは、一緒に機能しうる大量の余剰なタンパク質を含んでいるようです。ゲノムの 可塑性は、防御や生殖において新しい特異性が生じるひとつの道なのかもしれません。

Oryza rufipogon (アジアの野生イネ、栽培イネであるOryza sativa の原種)の3系統種に加え、3種類の栽培イネOryza sativa japonica(ジャポニカ種)、Oryza sativa indica (インディカ種)、 Oryza glaberrima (アフリカ種) のゲノム配列を利用し、少量分泌するシステインリッチなタンパク質を検索しました。そして、6種類のゲノムにわたる遺伝子を比較しました。全てのゲノム が、染色体中の似たような位置づけにシステインリッチなタンパク質の類似の遺伝子ファミリーを含んでいると同時に、遺伝子配列がしばしば崩壊したり、1つ または複数の種では一斉に消えたりしていました。また遺伝子重複もよく起こっていました。対照的に、実際の遺伝子コード領域では変異が小さかったのです。 ですから、複数の種にわたる小型のシステインリッチな分泌タンパク質における違いは、タンパク質配列の変異というよりはむしろ、主に機能的遺伝子の増減に よるものと思われます。

圃場 雌蕊と花粉間の認知について、我々は一つ二つのタンパク質を解析するわけではなく、膨大な量の異なる分子について、多方面から検討していきます。この種の分 子が一緒に対話して、「認知‐非認知」ができあがります。これらの遺伝子産物が連携して行動し、雌蕊と花粉の相互作用を特異なものにしているのです。異種 間で受粉した場合花粉管が伸長しないのは、ある特有のシステインリッチなタンパク質が欠けていたためと考えることもできます。特に雌蕊の中で発現した種で ある、システインリッチなタンパク質が確認できれば、イネにおける雌蕊‐花粉管間の認知と誘導の構成要素を見極めるうえで一歩前進といえるでしょう。

質問2 遺伝研を知ったきっかけを教えてください。

Shenton 2006 年、岩手生物工学センター(岩手県北上市)で研究する目的で、来日しました。そのため、遺伝研はもちろんこのエリアのことは何も知りませんでした。遺伝研 の存在を初めて知ったのは、岩手生物工学センターに在籍時、NBRPのコレクションから野生イネの種を取り寄せたときでした。

質問3 遺伝研の魅力はどこだと思いますか。

いいところはたくさんあります。国立の研究所なので、全般にわたりとても質が良いと思います。たとえば、セミナーやシンポジウムなどから、自分の研 究分野とは異なる様々な分野の科学から数多くを学ぶことができます。所内に所属する研究員のほかにも、国際的に著名なノーベル賞受賞者など、そうそうたる 科学者が遺伝研を訪れてセミナーをしてくれます。彼らの話はとても興味深いし、実りあるものです。 セミナーからは、自分にとって未知の分野の科学について造詣を深くしたり、時には研究に関するインスピレーションをもらうこともあります。
ま た、日本語が流暢ではない外国人研究者として助かるのは、ここでの研究がほとんど英語で行われることです。それに、留学生や外国人研究者が周りにいるの で、同じような立場の人たちと話ができるのもいいところです。コミュニケーションのしやすさから、所内の他の研究員と共同研究も始めやすいですね。

質問4 三島市の印象を聞かせてください。

三島は静かでいいところなので、気に入っています。お店やおいしく外食する場所があるし、子育ての環境も整っているのではないでしょうか。
自分はいなか育ちなので、自然を近くに感じられることが魅力です。それになんといっても、日々の生活で富士山が見られるのは格別です。三島に住み始めて3年余りですが、未だに富士山を見るたびに感動します。 ロケーションもいいですね。日本の中央に位置するので、東京など他都市へのアクセスがしやすいです。
母国イギリスの夏は三島のように蒸し暑くなったりしないので、夏の間は少しつらいですが、ここは年間を通して晴れの日が多く、気分がいいですよ。

質問5 休日はどのように過ごしていますか。

Shenton オーボエの演奏が趣味で、三島フィルハーモニー管弦楽団で2回コンサートに出演しました。オーケストラは様々な楽器が奏でる音のコンビネーションから成っているので、個人練習の後、みんなで演奏するときが演奏家にとっての醍醐味といえます。
それに、全ての団員と日本語でうまくコミュニケーションできているわけではありませんが、みんなで一緒に演奏した音楽はちゃんと形になっています。それは言葉を超えた、とても価値のあることだと思っています。
それから、サイクリングが大好きです。特に伊豆半島の山道を走るのが好きです。前回のサイクリングでは、修善寺経由で達磨山や戸田峠まで行きました。伊豆半島の海沿いのルートは壮観ですね。

bbqその他には、ガーデニングや家庭菜園で獲れた新鮮な野菜を使った料理、家族で外食やバーベキューをしたり、子どもたちとサッカーをしたり…いろいろなことに 興味があり、何をするのも楽しいのですが、なにしろ時間が足りません。でも、何もしていないより、多忙な方がずっと好きなので、何かできる機会がめぐって 来たときは、とにかくやるようにしています。

質問6 将来の目標は何ですか。

自分はここにいられることが、幸運だと思っています。そして、研究で社会に役立つような業績を収め、家族と日本に永住できるよう願っています。

(2013年1月 掲載)
音声おこしおよび翻訳:三浦智香子(総務・教育チーム)


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