島本 勇太 准教授 (しまもと ゆうた)

 定量メカノバイオロジー研究室 島本研究室

2007年、早稲田大学理工学術院物理学科、石渡研究室にて博士(理学)取得。その後ロックフェラー大学(アメリカ)にて博士研究員。2014年7月より国立遺伝学研究所、新分野創造センター准教授。

紡錘体や細胞核はどのように「力」を感知するのか?独自の観測システムで解明する

アフリカツメガエルの卵から抽出した細胞質に精子を加えると、紡錘体や細胞核が試験管内でひとりでに形成される。これらの構造物は細胞膜に覆われていないため、太さ1μmのガラス針とマニピュレーターを用いて直接力を加えたり力を測ったりすることが可能だ。このシステムを用いて、島本先生は紡錘体や細胞核が、物理的な力をどのように感知し応答するのかを研究している。

分子が生き物のように動く不思議

研究に用いる観察システムは、早稲田大学石渡研究室で使っていたものを島本先生が改良を重ねて作ってきた。ガラスの針を中空から棒状に変えたり、針を短くしてノイズを減らしたり、パーツをいじりながら独学で技術を身につけた。 さらに観察に使うレーザーなどは市販品を買わずに自作して、費用を数分の1に抑えたというほどの腕前だ。

「高校で物理が好きになり、宇宙とか素粒子とかにすごい興味があったんですけど、大学では授業に全然ついて行けなくて(笑)。そんなときに図書室で偶然鞭毛モーターの本を見つけて『こんなに小さい生き物がすごい巧妙な仕組みで動くんだ!』ってわかって。それで物理学科で生物を研究している石渡研究室で筋肉の研究を始めました。 顕微鏡で、動いているものを見るのがすごい面白かったんですよ。細胞はもちろん、精製してきたタンパク質を数種類混ぜるだけでも動きが再現できる。分子自体は生き物じゃないのに生き物らしい動きができてくる。物と生物の境界で、両方とも同じメカニズムで動きが見えるのが面白かった。」

博士課程のときに1年間、アメリカのロックフェラー大学で共同研究を行った。その縁もあって、博士取得後はロックフェラー大学でポスドクをやった。 「大学院のときは顕微鏡ができちゃうとそれだけで達成感があって、あとの研究のモチベーションは下り坂に…(笑)。やっぱりバイオロジー的に意味があることがやりたいなと思って、アメリカに行くことにしました。若かったので不安は感じませんでした。 もともと測ること自体が楽しかったんですけど、測って何の意味があるのかとか、新しいコンセプトがどれだけ出せるかとか、そういうことを毎日のように徹底的にディスカッションしました。日本と違って遠慮はしない。厳しく真剣。いい意味で叩かれてよく考えるようになったんで、すごくいい経験になったと思います。」

紡錘体が壊れるときの力の条件を発見

ロックフェラー大学でも石渡研のシステムを使い、紡錘体に針を刺して力を加え、応答を見る研究を行っていた。そこで意外な発見があった。

「変形を定量化する測定を行っていた時のことです。紡錘体はすごく安定にできていて、どんな力をかけてもゴムまりみたいにもとの形に戻ろうとするんですけど、ある特定の速さで力をかけてやると蜂蜜みたいにどろっと構造が流れ出すという性質が見つかったんです。その力のかけ方は、染色体が動いて位置を決めるときと同じような種類の力でした。」

それがわかった時はどんな気持ちだったのだろう?

「ひとつはすごい興奮。もうひとつは研究の落としどころが見つかって、ようやく解放されたっていう気分。研究って、仮説を立てて実験して、出てきたデータはだいたい期待通りかリーズナブルであまり面白くない。だけどひたすら考えてるうちに、それぞれのリーズナブルなデータから予想もしなかった新しい概念が出てくるっていうのが最大の醍醐味です。」

この発見のきっかけは、ある研究者の助言だったそうだ。

「ロックフェラー大学に、アルバート・リブシャバーという有名な物理学者がいて、彼に話したら『周波数解析をやりなさい』って言われたんです。たった一言。それは力をかける速さを変えるってことなんですが、やってみたら、今までゴムまりっぽい応答しか見えなかったのが、どろどろし始めるのが見えました。彼は80歳くらいですが現役で頭は超クリア。一言だけでブレイクスルーが生まれるというのは素晴らしいです。」

現在のターゲットは、紡錘体と細胞核

遺伝研へは2014年7月に赴任。そろそろ独立したいと思っていたとき、ちょうどテニュアトラックの公募があり採用された。

「遺伝研でやりたいことの一つは、紡錘体ができていくメカニズムを知ること。例えば紡錘体の骨組みになっている微小管。これの1本と1本を相互作用させたらどういうふうに配向していくのか、100本、1000本だとどういう構造ができるかをボトムアップ的に調べていきたい。 もう一つ、ものすごく興味があるのが細胞核。最近、物理的な力によって細胞の運命を特定の方向に導けることがわかってきていますが、細胞全体が力を感じるのか、細胞核が感じているのかわかっていません。カエルの卵の抽出液を使えば細胞核もアッセンブリできるので、核を直接ガラスの針で押したり引いたりしながら、どう変形するか、遺伝子の動態を変えられるかなどを見てみたいです。未分化細胞を思い通りの細胞に分化させるために生化学的な方法がたくさん研究されていますが、力学的な条件を見つけることで医学に貢献できたらと思っています。」

誰も真似できない、誰の真似もしない研究を!

研究室は立ち上がったばかりなので、大学院生を募集中。ラボのセールスポイントは?

「ガラスファイバー計測システムを使えるラボは世界に数カ所ですが、精密に定量的なことができるのはうちだけ。全くオリジナルの技術です。そして最近、物理学と生物学の融合が良く言われますが、うちのように一つのラボで両方学べるところは実はあまり多くないので、そこもいい所だと思います。」

博士を目指す学生へのアドバイスを聞いた。

「とにかく自分の興味を追求して、誰も真似できない、誰の真似もしないオリジナルな研究をやっていけば、いつか認められると思います。自分が思いついたことを大事にしてその問題を解く方法も自分で考えれば、オリジナル性は間違いなく出せると思うんです。 だから、科学者としての基礎体力を磨くことはもちろん大事なことだけど、同じ分野については、あんまり勉強しすぎない方がいいんじゃないかな。他の論文を読んでからスタートしても後追いでしかないし、アイデアも出てこない。僕のポリシーは、勉強は論文を書くときにはじめてやる。それで『あ!もうやられてるじゃない!』ってショックを受けることも結構多いんですけど、100%同じことはなくて、つきあわせれば自分にしかないものがわかります。」

ライフサイエンス 新着論文レビュー 「分裂中期の紡錘体のミクロな力学特性」
 http://first.lifesciencedb.jp/archives/3146

(田村佳子 インタビュー 2014年2月)

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