斎藤 成也 教授(さいとう なるや)

ゲノムの塩基配列と「かたち」を結びつけて紐解くヒトの進化

「歴史は、古ければ古いほど好きでした」と静かに話す斎藤成也教授の肩越しには、ダーウィンの置物と本棚の隅々までぎっしり並べられた数々の書籍が見える。この部屋で、遥か昔から現在までつながる生命の歴史が紐解かれていく。

研究は「記述」である
歴史、芸術、SF、宗教など様々な分野に興味がある。思い返せば、何事についても、その起源を調べるのが好きだったという斎藤先生が最初に発表した論文は、日本における苗字の地理的分布について調べたもので、日本人の歴史に深い関わりがある研究だった。そんな研究を重ねるうちに、興味の先はヒトの起源に向くようになった。現在は、ここ国立遺伝学研究所で、主にヒトの進化について実験とコンピュータ解析を用いた研究を行っている。
百編以上の論文を発表し、数多くの研究を行ってきたが、アプローチ法は一貫している。それは、「記述する」ということだ。「現在確立されている科学は、私たち人間が考えたものです。当然、我々が認識できるものしか研究対象にできないですよね。その中で、いかにものごとの本質に迫れるかが重要になってきます」。だからこそ、既存の法則を鵜呑みにせず、まずは現象そのものを客観的に書き記すことが重要だ。そこで初めて、本質を捉えることが可能になる。その考察結果を論理的に組み立てていくことが、自然現象を深く理解することにつながるのだ。
遺伝子レベルで見る顔の進化
耳の形や頬骨の高さなど人間の顔にある様々な形態の違いはどのようにして生まれてきたのだろうか。ダーウィンの進化論によると、生存競争で勝ち残る要素になっている形態が次世代に引き継がれているとされている。しかし、斎藤先生は、人間の顔の形態を決める遺伝子の多くは生存競争には関わっておらず、自然淘汰は受けていないと考えている。「中立進化論は、ゲノムの塩基配列レベルでは確立されています。それであれば、そのゲノムに由来する通常形質も中立進化論に則るはずです」。
その仮説を証明するため、人間の顔の形成に関わるDNA配列を突き止める研究を始めようとしている。まず、多数の人間の顔のデータをとり、特定の形質によっていくつかのグループに分類する。そのグループ内で共通する塩基配列データと顔の相関関係を見ることで、要因となる配列を絞り込んでいく。例えば、とがった形の耳を持つグループからは、耳をとがった形にするのに関わるDNA配列を特定できる可能性がある。
師を離れて自立できる教え子に
斎藤先生は、研究室の学生が「研究者として自立する」ことを願っている。「私のもとを巣立った学生には、私と関係なく独り立ちして研究してほしいと思っているんですよ。この場合、研究テーマはもちろん私のものとは異なってくるはずです」。指導教員の後を追いかけてくるのではなく、一研究者として独立した意見を持ち、知見を身につけることで、より深く真実に迫っていってほしい。柔らかい微笑みの内側からにじみ出る、強い想いが伝わってくる。
(株式会社リバネス 2010年インタビュー)

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