小原 雄治 教授(こはら ゆうじ)

生物遺伝資源情報研究室(小原研究室)
研究テーマ:細胞運命決定に関わる母性遺伝子の翻訳制御メカニズム/遺伝子発現クラスタリング解析と遺伝子カスケードの解析/細胞特異的発現調節領域の同定と発生の遺伝子制御機構/初期胚発生の計算機モデル化とシミュレーション/近縁種の発生パターンと遺伝子発現パターンの比較解析ライン

遺伝研はライフサイエンスの原点

国内外の遺伝学をリードする国立遺伝学研究所。この研究所を率いるのが第8代所長、小原雄治教授だ。現在も研究者として「線虫」というモデル生物を使って、遺伝情報から個体が作り出されるメカニズムを解き明かし、コンピュータ上での再現を目指す先端研究に精力的に取り組んでいる。

「線虫の研究で一番面白いところはね、一生が見えること。これしかない」。 身振り手振りを交えて軽快に話す小原教授の姿に、一瞬にして惹き込まれた。線虫は細胞が透き通っているため、成長の段階で働くタンパク質を光らせることで、その様子を顕微鏡を通して直接捉えることができる。「この研究を通じて僕が知りたいのは、生き物が小さな卵から個体になるときに、一体どんな遺伝子がいつどこで働いているかということなんですよ」。所長となった今も、第一線での研究をつづける小原教授。教授の研究は生き物の不思議に迫っていくことだ。

「地下実験」に研究の本質がある
「地下実験」「闇実験」。呼び名は様々だが、教授公認の研究テーマとは別に、密かに実験をしたことがある研究者は少なくない。小原教授もその一人である。「地下実験の良いところは、あまりそれに時間もお金もかけられないということ。指導教官にも隠しますよね。でも自分で考え出したテーマだから、何よりもわくわくする。何としてもやりたい。だから実験をする前に徹底的に考えて、短時間で、仮説に白黒つけられるような本質的な実験をする。これが研究の本質だよね。難しいけれども、こういう実験を経験したことの無い人は不幸かもしれないね」。
小原教授は研究を「自分で考えたテーマを追求していく個人活動だ」と考える。現在、学生の指導も行う小原所長は、こうした実験から学生の個性を垣間見ることもあるという。
風通しの良い大学院システムと研究所
小原教授が自身の研究と同じくらい力をいれているのが、大学院生の育成だ。遺伝研では総合研究大学院大学遺伝学専攻として大学院生を受け入れている。
「大学院の入試選抜試験では、一人当たり30分の面接をします。それも、教員がほぼ全員参加して行なうんです。無駄かもしれないですけど、全教員でどうやって学生を選抜するかということを一生懸命考える。ひとりひとりの学生について、徹底的にディスカッションするんです」。さらに、入試だけでなく学生が入った後の指導も複数の教員で行なう。「他大学院ではなかなかできないことだと思います。このシステムは指導教員にとってはすごく大変です。どんな指導をしているのか筒抜けですから。」真剣に取り組むからこそ、意見の衝突は避けられない。しかし教員が本音で話し合うことが教員同士、そして学生と非常にいい関係を作ることに繋がる。
遺伝学を礎に先端研究が交差する場所へ
自立した個人の研究活動と研究所全体での協力体制を絶妙なバランスで保つことは、遺伝学と無縁ではないようだ。
小原教授は「遺伝学は生物の表現型そのものと、もととなる情報:DNAの間を結ぶ学問です。その途中がどういうメカニズムになっているのかを追求する。そのためには多様な表現型とそれぞれの生物のDNA情報をストックし、共有しなければ成り立たない。一人だけが持っていても意味が無く、遺伝学には倉庫業のようなところがある」と考える。共有の発想はここから生まれている。表現型とDNAの間を結ぶ個々のメカニズムは、分子生物学の発展もあり、明らかになってきた。今後は「ライフサイエンスの他分野や情報学と融合し、個々にわかっていることをシステム化し、パソコンや試験管の中で再現することを試みたい」と小原教授は思案中だ。
これからの研究、これからの遺伝学。遺伝研では未来の話が尽きない。
(記事:株式会社リバネス 2006年インタビュー)

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