
「いろいろやってみるけれど、結局は好きなことに収束する。それで良いのではないでしょうか」。電子顕微鏡室で鈴木准教授は穏やかに呟いた。
博士課程での研究を通して、形態学の可能性をはっきりと感じた。研究していたマウス肝細胞の顕微鏡観察から、「発生過程において、肝細胞は内皮細胞と出会うことによって分化する」ということが現象としてわかった。だが、目の前の写真が物語る仮説を証明する術を学生だった当時は持ち合わせていなかった。
観察に主眼を置く形態学は、それだけで全てのことがわかるわけではない。けれども「見る」ということで、様々な仮説が生まれてくる。好きなことに夢中になるうちに、いつの間にか電子顕微鏡の技術を買われて共同研究の依頼が増えてきた。共同研究で実感したことは、ひとつの課題に対して、生化学、分子生物学、 遺伝学といろんな視点や手法でアプローチを行えば研究が進む。論文のトップオーサーではないかもしれないけれど、研究に貢献している感覚を持てるようになった。自分がリードする格好ではないことに、批判意見を浴びたこともある。けれども、「その時自分にできる最良のことをする」という誇りを持って続けてきた。