Costs of photosynthesis and cellular remodeling in trophic transitions of the unicellular red alga Galdieria partita
Shota Yamashita, Shunsuke Hirooka, Takayuki Fujiwara, Baifeng Zhou, Fumi Yagisawa, Kei Tamashiro, Hiroki Murakami, Koichiro Awai, and Shin-ya Miyagishima
Communications Biology (2025) 8, 891 DOI:10.1038/s42003-025-08284-5
多細胞生物の細胞分化に負けず劣らず、単細胞生物においても、周囲の環境や生活環に応じて細胞の形態や性質を大きく変化させる例が数多く知られています。なかでも単細胞藻類において、無機物しか利用できない条件では、緑色などの色素を用いて光を吸収し、光合成によって増殖する(独立栄養成長)一方で、環境中に利用可能な有機炭素源が存在すると、細胞が可逆的に白色化して光合成能力を失い、有機炭素源を利用して増殖する(従属栄養成長)種が、幅広い系統にわたって存在します。このような藻類の栄養性の切り替えは、のちに進化して現れた多細胞植物における(たとえば葉と根のような)細胞分化の起源である可能性も考えられます。しかし、これらの藻類は非モデル生物であり、栄養性の切り替えの生態学的意義やその分子メカニズムはこれまでほとんど明らかになっていませんでした。
このたび、国立遺伝学研究所の山下翔大博士研究員および宮城島進也教授らの研究チームは、静岡大学の粟井光一郎教授、村上博紀助教、琉球大学の八木沢芙美准教授らのチームと共同で、明瞭な栄養性の切り替え機構をもち、同研究グループが遺伝的改変技術を開発してきた単細胞紅藻ガルデリア(Galdieria partita)の独立栄養状態の緑色細胞、従属栄養状態の白色細胞、およびその遷移過程の細胞を、さまざまな手法を用いて比較解析しました。その結果、白色細胞では緑色細胞に比べて葉緑体(色素体)の体積および内部の膜構造が著しく縮退しており、光合成色素と光合成活性をほとんど失っている一方で、ミトコンドリアの体積と呼吸活性が増加し、緑色細胞の1.6倍の増殖速度を示すことがわかりました。また、細胞組成を比較したところ、緑色細胞は白色細胞よりも窒素を1.5倍、タンパク質を1.3倍、脂肪酸を1.7倍多く含んでおり、これらの物質の多くが光合成装置やそれを多数配置するための膜の合成に使われていることも明らかとなりました。さらに、ガルデリア細胞が白色化するかどうかは、細胞外に存在する糖の有無や種類によって決まり、光の有無は決定要因ではないこともわかりました。
これらの結果から、光合成を行うために必要な装置や膜構造の合成・維持は細胞にとって大きなコストとなっており、外部に利用可能な有機炭素源がある環境では、光が存在していても細胞はそれらの合成を停止し、従属栄養成長に切り替えることでより高い増殖速度を実現していることが示唆されました。
今後は、ガルデリアの遺伝的改変技術を活用した栄養性切り替え機構の分子レベルでの解明や、多細胞植物における細胞分化との共通点や進化的関連の解明が期待されます。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金(22K15166、24KJ0224、24H00579)および科学技術振興機構 未来社会創造事業(JPMJMI22E1)の助成を受けて実施されました。
図:異なる条件下で培養したガルデリアの培養液の色(左)と細胞の顕微鏡写真(右)。培地に糖(glucose)を加えると、明暗条件にかかわらず細胞は光合成色素を失い白色化する。逆に糖を除くと細胞は緑色へと変化する。論文の図1A, Bより引用・改変。