Heterotrophic unicellular eukaryotes feeding on the unicellular red alga Cyanidiococcus sp. in moderately hot geothermal sulfuric springs
Yuki Sunada, Dai Tsujino, Shota Yamashita, Wei-Hsun Hsieh, Kei Tamashiro, Jin Izumi, Fumi Yagisawa, Baifeng Zhou, Shunsuke Hirooka, Takayuki Fujiwara, Shin-ya Miyagishima
FEMS Microbiology Ecology (2025) 101, Article fiaf048, DOI:10.1093/femsec/fiaf048
現在の地球には、多種多様な環境にさまざまな生物が生息しています。これは、各生物が新たな環境に適応進化し、進出し続けた結果です。原核生物(バクテリア、アーキア)は特に極限環境(高温・低温、高濃度塩、強酸性・アルカリ性など)への適応進化能力が高く、さまざまな極限環境に生息する種が発見され、研究されてきました。一方で、生命の第三のドメインである真核生物(酵母などの単細胞真核生物からヒトや植物などの多細胞生物を含む)の記載例は極めて少なく、真核生物(細胞)はその体制的な制約により、極限環境に適応しにくいものと信じられてきました。
しかし近年、DNAシーケンシングおよび情報処理技術の発達により、単離培養せずとも特定の微生物を検出することが可能となり、その結果、種々の極限環境において、これまで見落とされてきたさまざまな真核微生物群の生息が示唆されるようになりました。しかしながら、DNAの検出だけでは、当該生物が本当にそこに生息しているのか、あるいは周囲の環境からの混入(死骸やそこから溶出したDNAなど)なのかを区別することは困難です。また、その生物がどのような機構を進化させて当該環境に適応できたのかを解析するためには、そのような生物群の培養系を確立する必要があります。
このたび、共生細胞進化研究室の総研大生・砂田さん、辻野さん、博士研究員の山下さん、および宮城島教授らの研究チームは、火山帯に多く見られる高温・強酸性環境の硫酸酸性温泉(40℃以上、pH 2以下)から7種の単細胞真核生物を発見し、単離培養に成功しました。これらの生物は、これまで高温・強酸性環境に生息する真核生物として唯一知られていた単細胞紅藻イデユコゴメ類を主食として生育していることも明らかとなりました。今回見つかった7種の真核生物は、それぞれ真核生物の別々の系統に属しており、それぞれに近縁で中温・中性環境に生息する生物が知られています。つまり、真核生物のさまざまな系統が、酸性および耐熱性の形質をそれぞれ独立に獲得することで、硫酸性温泉という極限環境に進出したことが明らかになりました。
今後、これらの高温・強酸性環境に生息する生物群のゲノムを、中温・中性環境に生息する近縁種と比較することで、真核生物の極限環境への適応機構の解明が期待されます。
本研究は、日本学術振興会 科研費(20H00477, 24H00579)、科学技術振興機構 未来社会創造事業(22682397)の支援を受けました。
図:硫酸酸性温泉から単離・培養された単細胞真核生物
(A)硫酸酸性温泉の環境、(B)現地で試料を採集する砂田さん、(C)本研究で発見され、培養に成功した単細胞真核生物の顕微鏡像(細胞内の緑色のものは、細胞内に取り込み消化中の微細藻類イデユコゴメ)