2024/10/18

プロゲステロン膜受容体(γタイプ)は魚類嗅神経の形成に必須

プレスリリース

技術課 / フェノタイプ研究推進センター / 細胞建築研究室

Membrane progesterone receptorγ (paqr5b) is essential for the formation of neurons in the zebrafish olfactory rosette

Umme Habiba Mustary, Akiteru Maeno, Md. Mostafizur Rahaman, Md. Hasan Ali & Toshinobu Tokumoto

Scientific Reports (2024) 14, 24354 DOI:10.1038/s41598-024-74674-0

プレスリリース資料

静岡大学創造科学技術大学院・バイオサイエンス専攻・徳元俊伸教授を中心とする研究グループは、ゲノム編集によりプロゲステロン膜受容体γタイプの遺伝子破壊を行なったところ、嗅覚受容神経(嗅神経)細胞を欠失したゼブラフィッシュが誕生することから、この膜受容体が嗅神経の形成に必須であることを発見しました。

細胞膜上に存在するステロイド膜受容体を介したステロイドホルモンのノンゲノミック作用経路についてはステロイドの新規作用経路として世界的に研究が進められています。ステロイド膜受容体のうち、最初に発見されたプロゲステロンの膜受容体であるPaqr遺伝子群は生殖細胞の分裂制御や癌細胞の増殖などへの関与を示す多くの報告がなされているものの決定的な生理学的な機能証明は未だなされていませんでした。

徳元研究室ではゲノム編集技術により、Paqr遺伝子群の遺伝子ノックアウト系統を樹立することでこの遺伝子群の生理学的機能の証明を目指しています。今回、Paqr遺伝子群の5番目の遺伝子であるpaqr5b遺伝子のノックアウト系統に興味深い変異を発見しました。

この系統の魚では頭部に異常がみられた(おでこが凹む)ことより、頭部内部の構造を国立遺伝学研究所の前野哲輝技術専門職員との共同研究によりマイクロCTスキャンで観察したところ、鼻の構造が著しく小さくなっていることを発見しました。そこで、嗅上皮を細胞レベルで観察したところ嗅上皮中の嗅神経が消失していることが明らかになりました。この結果はPaqr5b受容体が嗅神経の分化に必要であることを示しています。

この発見はPaqr遺伝子の明確な生理機能を示した最初の報告であると共に、再生する神経細胞として特異な性質を持つ嗅神経の分化がプロゲステロン類により誘導されていることを示唆する興味深い発見です。

本研究は、科学研究費補助金 基盤研究(C)23K05830、及び、国立遺伝学研究所公募型共同研究「NIG-JOINT」33A2023, 29A2024の支援を受けて行われました。

本研究成果は、2024年10月 17日(ロンドン時間午前1時)に、Springer Natureの発行する国際雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

図1: 野生型では嗅神経の表面にPaqr5bの抗体が結合し、蛍光を発している。野生型、paqr5bノックアウト系統ともに嗅上皮の表面が強い蛍光を発しているが、蛍光は粘膜への抗体の吸着による。

図2: マイクロCTスキャンによる観察の結果

  • マイクロCTが本研究の基盤の一つになっています。フェノタイプ研究推進センターでは研究者コミュニティ向けに、本技術を用いた撮影支援を受益者負担の受託型事業として提供しています。

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