プレスリリース
A spinal microglia population involved in remitting and relapsing neuropathic pain
Keita Kohno, Ryoji Shirasaka, Kohei Yoshihara, Satsuki Mikuriya, Kaori Tanaka, Keiko Takanami, Kazuhide Inoue, Hirotaka Sakamoto, Yasuyuki Ohkawa, Takahiro Masuda, Makoto Tsuda
Science (2022) 376, 86-90 DOI:10.1126/science.abf6805
がんや糖尿病、帯状疱疹、脳梗塞などで神経が傷つくと、非常に長引く痛みを発症する場合があります。この慢性疼痛は神経障害性疼痛と呼ばれ、解熱鎮痛薬などの一般的な薬では抑えることができず、モルヒネのような強い薬でも効かないことがあり、治療に難渋する痛みです。
基礎研究に用いるマウスでも、ある神経を傷つけると数日で痛みが出現し、数週間持続する慢性疼痛を発症します。しかし、この場合、不思議なことに、神経の傷は治っていないのにその痛みは徐々に和らいできます。なぜ、痛みが自然に弱くなっていくのか、そのメカニズムはこれまで不明でした。
九州大学大学院薬学研究院の津田誠主幹教授、同薬学府の河野敬太大学院生(当時)、白坂亮二大学院生、同薬学研究院の増田隆博准教授らの研究チームは、同高等研究院および生体防御医学研究所、岡山大学、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所、及び塩野義製薬株式会社との共同研究により、痛みからの自然回復に必要な細胞を世界で初めて発見しました。驚くことに、この細胞はこれまで痛みの発症原因とされてきたミクログリア細胞の一部が変化したものであり、その細胞を無くしたマウスでは痛みからの回復が起こらず、長い間痛みが持続しました。このミクログリア細胞がIGF1という物質を作り出し、それが痛みを和らげることも明らかにしました。
今回の成果から、これまで痛みの発症に関わるとされてきたミクログリア細胞の新たな側面が明らかになり、今後、今回特定したサブグループを増やす化合物やIGF1(insulin-like growth factor 1)を多く作り出す化合物が見つかれば、神経障害性疼痛などの慢性痛に有効な治療薬の開発につながることが期待されます。
本研究はJSPS科研費 (基盤研究(S)JP19H05658, 学術変革領域研究(A)JP20H05900, 研究活動スタート支援JP20K22687, 基盤研究(B)JP21H02752, 新学術領域研究JP21H00204, 新学術領域研究(先端バイオイメージング支援プラットフォーム:ABiS)JP16H06280)、JST【ムーンショット型研究開発事業】グラント番号【JPMJMS2024】、AMED革新的先端研究開発支援事業AMED-CREST(代表:上口裕之)JP21gm0910006、PRIME JP20gm6310016、AMED脳とこころの研究推進プログラム(代表:古屋敷智之)JP21wm0425001、AMED創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(代表:大戸茂弘)JP21am 0101091)、塩野義製薬株式会社からの助成を受けたものです。
本研究成果は,米国科学雑誌「Science」オンライン版に2022年3月31日(木)14時(米国時間)に掲載されました。
遺伝研の貢献
マウス開発研究室の高浪景子助教は免疫電子顕微鏡法による微細構造解析に貢献しました。