2020/06/15

ドロボウは共生のはじまり!?
―盗葉緑体性渦鞭毛虫から探る葉緑体獲得の進化

Changes in the transcriptome, ploidy, and optimal light intensity of a cryptomonad upon integration into a kleptoplastic dinoflagellate

Ryo Onuma, Shunsuke Hirooka, Yu Kanesaki, Takayuki Fujiwara, Hirofumi Yoshikawa, Shin-ya Miyagishima

The ISME Journal (2020) DOI:10.1038/s41396-020-0693-4

Link to “Behind the Paper” the Nature Research Microbiology Community

植物や藻類の葉緑体は、もともと他の生物を捕食していた単細胞性の真核生物が、光合成生物を自身の細胞内に取り込み、統合したことによって誕生しました。このような葉緑体獲得は真核生物のさまざまな系統で独立に複数回起こったとされ、生態系に多様な藻類を生み出した進化の原動力であると考えられています。しかしながら、捕食-被食関係が永続的な共生関係に至った過程については多くのことが不明です。

盗葉緑体現象は、自前の葉緑体をもたない生物が他の藻類またはその葉緑体を自身の細胞内に取り込み、細胞内で一時的に維持する現象で、真の葉緑体を獲得する手前の進化段階であると考えられています。盗葉緑体性渦鞭毛虫Nusuttodinium aeruginosum(ヌスットディニウム アエルギノーサム)は、クリプト藻という単細胞藻類を取り込み、細胞内でその葉緑体を元のサイズの20倍以上に拡大することが知られています(図1A)。以前の観察結果から葉緑体の拡大にはクリプト藻の核が必要でことが示唆されましたが(Onuma & Horiguchi, 2015, Protist)、その詳細は明らかになっていませんでした。

そこで本研究では、N. aeruginosumと、それが取り込むクリプト藻を対象とし、クリプト藻核のトランスクリプトーム解析、様々な光条件での培養実験などを行い、盗葉緑体現象におけるクリプト藻核の役割を明らかにしました。その結果、渦鞭毛藻に取り込まれたクリプト藻核は(1)転写活性を維持しており、取り込まれる前よりも代謝・翻訳・DNA合成に関する遺伝子群の発現が上昇すること、(2)核分裂せずにDNA複製が持続し多倍体化すること(図1B)、(3)明暗の切り替えに応答した遺伝子発現変化がなくなること、(4)特に、光合成酸化ストレスを生じる強光条件下で宿主渦鞭毛藻の生存を支えていることが明らかになりました。

今回、盗葉緑体現象において見られた、取り込まれた藻類核の多倍体化と転写制御の喪失は、真の葉緑体をそれぞれ独立に確立した様々な生物群にも共通する現象です。つまり、これらの現象は、永続的な共生関係を確立する前から起こりうること、真の葉緑体をもつ生物群も太古の昔には盗葉緑体性生物であった可能性が示唆されます(図1C)。

本研究に至る過程をNature Research Microbiology CommunityのBehind the Paperで別途紹介しています。

本研究は、国立遺伝学研究所共生細胞進化研究室の大沼亮研究員(学術振興会特別研究員)、宮城島進也教授を中心として、国立遺伝学研究所、静岡大学、東京農業大学との共同研究チームによって行われました。

本研究は、科学研究補助金(17H01446、15H06834、17K15168、18J01089)、文科省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(S1311017)などの助成のもとに実施されました。

Figure1

図:Nusuttodinium aeruginosumの盗葉緑体現象
(A) 渦鞭毛虫とクリプト藻の二員培養(左)、クリプト藻取り込んで維持している渦鞭毛藻(中央)、取り込まれる前のクリプト藻(右)の写真。スケールバーは10 µm。
(B) 渦鞭毛虫に取り込まれた後のクリプト藻核(矢尻;緑の蛍光)と葉緑体(赤の蛍光)の変化。渦鞭毛藻に取り込まれたクリプト藻核と葉緑体は徐々に拡大する。スケールバーは10 µm。
(C) 本研究の結果から示唆される、捕食-被食関係から永続的な共生関係への進化過程。捕食-被食関係では、捕食者は被食者をすぐに消化する(左)。葉緑体とその起源となった細胞の縮退核をもつ一部の藻類は、葉緑体と縮退核を自身の細胞分裂に同調させることで、永続的な共生関係を維持している。その縮退核は多倍体化しており、環境変動に応じた転写制御が無くなっていることが知られている(右)。N. aeruginosumに見られる盗葉緑体現象でも、取り込まれた藻類核の多倍体化と転写制御能の喪失がおこる(中央)。


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