2007/11/07

マウス開発研究室の梅森十三研究員と高橋阿貴研究員が共にJournal awardsを受賞

 2007年10月28日から11月1日まで京都で開催されたInternational Mammalian Genome Conferenceにおいて、マウス開発研究室の梅森十三研究員と高橋阿貴研究員が共にJournal awardsを受賞いたしました。


マウス開発研究室 小出研究室


  梅森十三 研究員(Science award受賞)
“Aberrant neurological development caused by genetic incompatibility between two wild-derived mouse strains” Juzoh Umemori, Ryouta Kondou, Takeaki Uno, Shigeki Yuasa and Tsuyoshi Koide


ヒトの孤発性疾患の原因として、発生・発達段階での異常、特に環境要因などの影響などが提唱されているが、遺伝的要因の関与もしばしば議論されている。
梅森らによる研究では、このような集団中で散発的に見られる異常に、Dobzhansky and Mullerが1930年代に二つの集団の種分化機構としてショウジョウバエで提唱した遺伝的不適合性と同様の機構が関与しているのではないかという可能 性を示した。ここでは、ブルガリア由来のBLG2系統と韓国由来のKJR系統という遺伝的に異なったマウスの2系統を交配して得た2世代を解析することに より、複数の遺伝子座間の相互作用に不具合が生じ、表現型にも異常が生じる遺伝的不適合(Genetic Incompatibility)を見出した。この不適合により、神経線維の髄鞘形成異常や心臓形成異常による胎児期での致死が見られた。遺伝学的な解析 の結果、遺伝的不適合に関わる遺伝子座の一つを第13染色体の1.6Mbの領域に絞り込むことに成功し、その遺伝子座をGenic1と名づけた。
一方で、Genic1と相互作用する相手の遺伝子座については、特定の顕著な遺伝子座が存在するわけではなく、多数の遺伝子座のあいまいさを許した相互作 用の可能性が示された。この、約1.6MbpのGenic1領域を解析し、また相互作用する相手方の遺伝子座を明らかにすることで、今後ヒトの孤発性疾患 をもたらす遺伝的要因がどのような遺伝的作用により異常をもたらすのか明らかにすることが出来る可能性が出てきた。


高橋阿貴 研究員(Nature Genetics award受賞)
“Systematic analysis of behavioral traits using consomic mouse strains established from C57BL/6J and wild-derived MSM” Aki Takahashi, Akinori Nishi, Ayako Ishii, Toshihiko Shiroishi and Tsuyoshi Koide


マウス系統間で見られる顕著な行動の違いに関わる遺伝的基盤を明らかにする目的で、行動遺伝学的な手法により不安様行動に関連する遺伝子座をシステマティックに明らかにした。
この研究で用いた系統は、代表的な実験用系統であるC57BL/6と日本産野生マウスに由来するMSM系統、及びそのC57BL/6系統の染色体の中の1 対をMSMの対応する染色体と置換した一連のコンソミック系統である(これらコンソミック系統は哺乳動物遺伝研究室において樹立された)。これらコンソ ミック系統とC57BL/6系統の行動表現型を比較することで、何らかの行動に違いがあれば、その原因となる遺伝因子は置換された染色体上に存在すること になる。この方法で、不安様行動を評価する一連の行動テストを行い、不安様行動に関連する多数の染色体を明らかにした。この結果から、行動の系統差は多数 の染色体が関与する複雑な遺伝的ネットワークによりもたらされていることが明らかになった。更に、顕著な不安様行動を示す17番染色体コンソミック系統に 着目し、それからより狭い一部の染色体領域のみ置換された一連のコンジェニック系統を作出し、どの染色体領域が不安様行動に関連しているか明らかにした。 この解析により、17番染色体には不安用行動の異なった側面(危険評価・新奇場面での活動)に関与する複数の遺伝子座が存在し、それらが複雑に作用しあっ て不安様行動をもたらしていることが分かった。また、それらの遺伝子座の中の一つを更に狭い領域に分けて解析することで、約6Mbpの領域内に危険評価行 動に関わる遺伝子が存在していることを明らかにした。
この一連の研究は、行動多様性に関わる遺伝的基盤がこれまで考えられてきた以上に複雑であることと、それぞれの行動要素に関連する遺伝子をこのアプローチにより同定できる可能性を示すものとなった。

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