2013/08/30

サーチュイン遺伝子は、本当に長寿遺伝子だった -ゲノムを安定化することで老化を防ぐ作用機序を解明-

Press Release

細胞遺伝研究部門・小林研究室

Cellular senescence in yeast is regulated by rDNA noncoding transcription.
Kimiko Saka, Satoru Ide, Austen R.D. Ganley, and Takehiko Kobayashi
Current Biology,
29 August 2013 doi:10.1016/j.cub.2013.07.048

プレスリリース資料

寿命を延ばす働きをすると信じられているサーチュイン遺伝子(SIR2)。社会的な注目度も高く、関連した健康補助食品が販売されているくらいです。サーチュイン遺伝子の作用を解き明かそうと世界中の研究者が挑戦し、いろいろな仮説は得られてきましたが、詳しい作用メカニズムが明らかになっていませんでした。サーチュインはどんな仕組みで働くのでしょうか。そもそも、サーチュインの長生き効果は本当なのでしょうか。

今回、国立遺伝学研究所の小林武彦教授らは、その質問に答える決定的な発見をしました。さまざまな仮説を一掃する発見です。サーチュイン遺伝子の作用する反応経路を明らかにすることに成功したのです。それによると、サーチュイン遺伝子には、ある遺伝子の数を一定に保つという作用があり、それがゲノムの安定性へ通じ、確かに寿命を延ばすことにつながっていたのでした。そしてこれこそが、長生き効果における唯一の反応経路であることを実証しました。

ある遺伝子とは、リボソームRNA遺伝子です。この遺伝子は、ゲノム中にたくさんのコピーが含まれていますが、そのコピー数が変動しやすい、つまり不安定な性質をもつ遺伝子なのです。小林教授は、ヒト老化研究のモデル生物である酵母による研究を長年続け、データを積み上げてきました。そうした研究がジグソーパズルのピースの1片、1片を明らかにすることとしたら、今回の小林教授の研究は、そのジグソーパズル全体を完成させたようなものです。つまり、全体像が見えるようになり、そのことで、サーチュイン遺伝子が寿命を延長する効果を発揮するには、何が真に必要なのかが見えるようになったのです。決定的に必要なのはリボソームRNA遺伝子のコピー数の維持であること。具体的には、E-proというプロモーターを制御することだということです。実験では、サーチュイン遺伝子のノックアウト酵母株において、リボソームRNA遺伝子のコピー数を制御することにより、酵母菌の寿命を自由に操作することさえ可能でした。今後、このリボソームRNA遺伝子のコピー数の維持、つまりゲノムの安定性の維持が、老化や寿命の制御にどのように具体的にかかわっているか、さらに突き止めていくことが望まれています。それはヒトの老化機構の解明や、健康寿命の延長につながっていくでしょう。

若い細胞ではSir2タンパク質が非コードプロモーター(E-pro)の発現を抑えているが、細胞が分裂を繰り返すとその抑えが徐々に弱くなり、E-proからの転写が起こり、リボソームRNA遺伝子の安定性が低下する。その結果何らかの老化シグナルがリボソームRNA遺伝子から発せられ、細胞が老化する。今回E-proからの転写を人為的にON、OFFできるようにしたところ、SIR2の有る無しに関わらず、ON時は酵母が短寿命で、OFFでは長寿命になることを見つけた。


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