Chromosome engineering allows the efficient isolation of vertebrate neocentromeres
Wei-Hao Shang, Tetsuya Hori, Nuno M.C. Martins, Atsushi Toyoda, Sadahiko Misu, Norikazu Monma, Ichiro Hiratani, Kazuhiro Maeshima, Kazuho Ikeo, Asao Fujiyama, Hiroshi Kimura, William C. Earnshaw, and Tatsuo Fukagawa生物学の教科書を書き換えるような根本的な発見が、染色体研究の分野で起こっています。長い間謎に包まれていた染色体のセントロメア ──その正体を明らかにしてきた国立遺伝学研究所の深川竜郎教授らのグループは、今回、セントロメアを人工的に作成する画期的な染色体改変技術を考案しました。 分子生物学の基本的な技術として、医学や農学などの分野で今後大いに活用されると期待されます。
生命の設計図である遺伝子は、細胞分裂のたびに新たな細胞にきちんと受け継がれていきます。遺伝子を安全に次世代に「運ぶ」ことは、細胞の大切な仕事であり、細胞にはそのための精巧な仕組みが備わっています。 その1つが、遺伝子を積み込む「乗り物」としての染色体と、染色体の中央部で、染色体の「運転手」としての役割を果たすセントロメアです。
ヒトの病気の研究から、運転手であるセントロメアが何らかの理由で働けなくなったときに、「控えの運転手」(ネオセントロメア)が現れるという珍しい現象が知られていました。そこで深川教授らは、ネオセントロメアを自在に作成する技術を開発し、それが染色体のどこに現れ、どのような性質を持つかを調べました。 その結果、ネオセントロメアは、CENP-A(センプA)というヒストンタンパク質が含まれる染色体上の位置に作られること、今回作成したネオセントロメアが本来のセントロメアと遜色ない働きを果たすことがわかってきました。
今回の研究では、染色体が運ばれる機構(染色体分配)の基本的な仕組みが明らかになったことに加えて、染色体を改変する新しい技術をも考案しています。 すなわち、既存のセントロメアを壊し、染色体の任意の位置に新しいセントロメアを作る技術です。今回は、ニワトリの培養細胞を実験に用いていますが、この原理は他の高等動物にも応用でき、 例えば遺伝子デリバリーシステムなどに使用可能なヒト人工染色体の開発に利用されていくことでしょう。
細胞分裂と染色体のセントロメア
細胞分裂の分裂期には、染色体の中央部分にあるセントロメアに向かって線維(紡錘糸)が伸びてきて、染色体は両極に運ばれ、その結果、染色体の均等な分配が達成されます。 この仕組みが障害されると、がんなどの病気が引き起こされます。セントロメア上で紡錘体と結合する構造体は、動原体ともよぶ。