2024/04/23

ヤマアラシ亜目における嗅覚・フェロモン・味覚受容体遺伝子の同調的進化
~グルメな動物は鼻も良い!?~
(西アフリカで食用にされている大型げっ歯類グラスカッターの全ゲノムを解読)

Synchronized expansion and contraction of olfactory, vomeronasal, and taste receptor gene families in hystricomorph rodents

Yoshihito Niimura*, Bhim B. Biswa, Takushi Kishida, Atsushi Toyoda, Kazumichi Fujiwara, Masato Ito, Kazushige Touhara, Miho Inoue-Murayama, Scott H. Jenkins, Christopher Adenyo, Boniface B. Kayang, Tsuyoshi Koide*
*共同責任著者

Molecular Biology and Evolution Mol. Biol. Evol. (2024) 41, msae071 DOI:10.1093/molbev/msae071

プレスリリース資料

宮崎大学農学部獣医学科新村芳人教授、国立遺伝学研究所小出剛准教授・豊田敦特任教授、ふじのくに地球環境史ミュージアム岸田拓士准教授(研究当時。現在は日本大学生物資源科学部教授)、京都大学野生動物研究センター村山美穂教授らは、ガーナ大学との共同研究として、嗅覚・フェロモン・味覚の受容体遺伝子は、進化の過程で、同調的に増えたり減ったりしていることを示しました。

霊長類は、高度な視覚をもつ反面、嗅覚はあまり発達していません。また、ハクジラ類(イルカ)では、嗅覚や味覚は退化していますが、音波で外界を探索する反響定位の能力を進化させてきました。限られたエネルギーを異なる感覚系に振り分けなければならないため、「感覚のトレード・オフ」が起きると考えられています。しかしながら、異なる化学感覚―嗅覚・フェロモン・味覚―間でトレード・オフが起きるかどうかは、よくわかっていませんでした。ヤマアラシ亜目の進化系統樹(図1)の各枝において、遺伝子の重複・欠失がそれぞれ何回起きたかを分子進化学的な手法によって推定しました。解析の結果、ヤマアラシ亜目の系統樹の各枝で起きた重複(または欠失)数が、4種の化学感覚受容体遺伝子間で正の相関があることが分かりました(図2)。つまり、進化の過程において、ある生物の系統で、嗅覚受容体遺伝子の数が増える(減る)と、同時にフェロモンや味覚の受容体遺伝子の数も増える(減る)ということです。このことから、化学感覚間では感覚のトレード・オフは起きず、化学感覚受容体遺伝子は同調して増えたり減ったりしていることが示されました。

また、本研究ではグラスカッターのゲノムを高精度で解読し、新たにゲノム情報のウェブブラウザを作成しました(https://grasscutter.nig.ac.jp/)(図3)。グラスカッターは西アフリカ地域で食用に好まれている大型齧歯類です。現在、ガーナ大学においてグラスカッターの家畜化プロジェクトを進めており、本成果を家畜化の推進に活用されることが期待されます。

本研究は、新村芳人教授に対する科学研究費助成事業(18K06359および22K06341)および小出剛准教授に対する科学研究費助成事業(19KK0177)、その他、科学技術振興機構 持続可能開発目標達成支援事業aXis(JPMJAS2017)、国立遺伝学研究所共同研究NIG-JOINT(1B2020) 、村山美穂教授に対する味の素ファンデーション「食と栄養」国際支援プログラムの支援を受けて実施されました。

本研究結果は、2024年4月23日に「Molecular Biology and Evolution」に掲載されました。

図1: 17種のヤマアラシ亜目のもつ4種の化学感覚受容体遺伝子の数
種名の左側に、17種のヤマアラシ亜目の系統樹と分岐年代を示した。

図2: ヤマアラシ亜目の進化過程における、4種の化学感覚受容体遺伝子の増減の相関
赤線は遺伝子数の増加、青線は遺伝子数の減少に対する相関を示す。線の近くにある数値は相関係数を表す(*, **, ***はそれぞれ有意水準5%, 1%, 0.1%で有意)。

図3: 新たに作成したグラスカッターのゲノムウェブブラウザ


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