Evolutionary alterations in gene expression and enzymatic activities of gibberellin 3-oxidase 1 in Oryza
Kyosuke Kawai, Sayaka Takehara, Toru Kashio, Minami Morii, Akihiko Sugihara, Hisako Yoshimura, Aya Ito, Masako Hattori, Yosuke Toda, Mikiko Kojima, Yumiko Takebayashi, Hiroyasu Furuumi, Ken-ichi Nonomura, Bunzo Mikami, Takashi Akagi, Hitoshi Sakakibara, Hidemi Kitano, Makoto Matsuoka & Miyako Ueguchi-Tanaka
Communications Biology (2022) 5, 67 DOI:10.1038/s42003-022-03008-5
植物ホルモンのひとつであるジベレリン(GA)(用語説明1)は、植物体内で活性をもつ複数の活性型GAが存在し、ジベレリン3酸化酵素(GA3ox)の働きにより前駆体GAから合成されます。イネは2種類のGA3ox(OsGA3ox1、OsGA3ox2)を持ちますが、葯のみに遺伝子発現するOsGA3ox1についてはその生物学的な意味はほとんどわかっていませんでした。
osga3ox1変異体の解析から、OsGA3ox1が葯(花粉)で活性型GAのうちGA4だけでなく非常に生物活性が高いGA7を多量に合成し、これが発達後期の花粉のデンプン蓄積と受粉後の花粉管の発芽伸長に働くことが示されました。X線結晶構造解析により、このようなOsGA3ox2とは異なるOsGA3ox1のGA7合成能の高さは、GA3oxを含む酵素ファミリーで高度に保存された活性中心のチロシン(Y)がOsGA3ox1でフェニルアラニン(F型GA3ox1)に置換していることが原因である、とわかりました。
F型GAox1は栽培イネとそれに近縁な野生イネだけが保存し、比較的遠縁の野生イネは保存しないことから(図1)、イネ属の分岐後に生じたと推定されます。また、その進化に伴って遺伝子発現も葯特異的性が強くなり、より葯にGA7を多量に合成するようになりました。栽培イネおよび4種の野生イネのGA3ox1遺伝子をosga3ox1変異体に導入すると、葯でのGA7合成能の高いGA3ox1ほど花粉稔性の向上に寄与しました。
これらの結果は、F型GAox1の獲得および花粉での活性型GA7の増加が花粉管の伸長能を補強し、イネ属植物の種分化や繁殖能力に影響を及ぼす可能性を示唆します。
本論文は、名古屋大を中心とした理研、遺伝研、京都大、岡山大による共同研究成果です。本成果には、文科省ナショナルバイオリソース(NBRP)イネの支援を受けて遺伝研が保存する野生イネ系統が貢献しています。
用語説明1:ジベレリン
茎の伸長や種子の発芽誘導、花芽の形成などに重要な生理現象を制御する植物ホルモンのひとつ。イネ馬鹿苗病の原因菌(Gibberella fujikuroi)が生産する毒素として日本人研究者により初めて発見された。