僕は角谷研究室でシロイヌナズナを使って、DNAメチル化を中和する転位因子と宿主による発現抑制の研究を行っています。
転位因子はゲノム進化にとって重要なインパクトを持ちますが、潜在的に有害であり、DNAメチル化などによるエピジェネティクスにより不活性化されています。シロイヌナズナのゲノム上にある転位因子のグループの一つにVANDAL21があります。VANDAL21は遺伝子構造類似性から突然誘発物類似分子(MULE)と分類されています。僕の所属する角谷研においてVANDAL21のコピーのうちいくつかは、シロイヌナズナの突然変異ddm1においてゲノム上のDNAメチル化が減少すると転位することを示唆されていました。
僕の研究では、自家受粉したddm1突然変異のゲノムDNAを使用し、PCR法かつ全ゲノムを再びシーケンシングすることによりVANDAL21属の可動なコピーを確認し『飛雲(Hiun,省略してHi)』と名付けました。名前は西本願寺にある京都三名閣の一つである飛雲閣からとっています。飛雲閣は左右非対称の建造物でありHiも左右非対称であったこと、『飛雲』という名前がHiの性質である転位性を連想させることからこの名前にしました。
Hiは他のMULEと違い、末端逆位配列(TIR)ではありません。TIRは一般的にトランスポゼースの基質を成すと思われているために、TIRを持っていないということは異常です。そんな異端な構造であるのにも関わらず、Hiは他の典型的なMULEのように削除や転位の活性を持っていました。Hiは野性型で負活化されていますが、脱DNAメチル化がおこると転位が起こります。
Hiは3つのORFを持っており、vanA、vanB、vanCと名付けました。(※編集註 当初はhiA、hiB、hiCと名付けたが、同名の遺伝子があったためVANDAL21にちなんでvanA、vanB、vanCと改めました。)各ORFの役割を知るために、それぞれのORFを削除した3タイプの導入遺伝子を生成しました。脱メチル化効果にvanCが不可欠であることを示すように、DNAの脱メチル化効果はvanCが削除(△vanC)された導入遺伝子に廃棄されました。一方△vanB(vanBを削除した導入遺伝子)は短縮されていないHi導入遺伝子と見分けがつかない脱メチル化活動を行います。△vanA(vanAを削除した導入遺伝子)ではvanCの上流にある内因性Hiの両端のうちひとつに脱メチル化活動がありましたが、脱メチル化活動はvanAの末端領域上流では大幅に減少されていました。
△vanAの内因性Hiの可動化に対する影響についても検証しました。多くの遺伝子導入系において、内因性Hiの削除を検出することができました。驚くべきことに、vanAは推定上のトランスポザーゼをコード化しており、どうやら転位を触媒していたようです。しかしながら、内因性vanAが△vanA導入遺伝子のある場所で抑制解除されることを示すように、続く実験ではvanAの書き換えが△vanA列で蓄積することが明らかになりました。△vanA導入遺伝子はvanB、vanCという2つのORFを含みます。vanCが内因性vanAの転写性再抑制に十分かどうかを試すために、vanAvanBともに削除した導入遺伝子(△vanA; vanB)を挿入しました。△vanA; vanBは内因性vanAおよびvanBの転写を引き起こし、かつ内因性Hiの削除とある一方の末端でのDNA脱メチル化を誘発することがわかりました。これらのトランス作用性の影響は、△vanAによるものと見分けがつかない、vanBよりもむしろvanCがHi導入遺伝子のトランス作用性の影響に関わっていることを示しています。
VANCはシロイヌナズナとその近縁種しか持っていないので、現在のところはヒトに直接貢献することはありません。しかしながら、トランスポゾンは様々な生物にあるため、研究を通じて進化に対する何らかの示唆ができればと考えています。
僕が筑波大学の3~4年生だった頃、大学院進学で内部にとどまるか外に出るかを考えていたときに、当時遺伝研にいらした方がセミナーに来てくださり、遺伝 研の存在を知りました。その後第一志望だった大学院を訪問したときに、たまたまいらしていた角谷先生に出会いました。研究テーマが面白かったのはもちろ ん、先生の研究者らしい風貌といい、なんかいいなあと思って。
その出会いの後、遺伝研が開催している総研大のバスツアー(大学院説明会)に参加して角谷研を訪問しましたが、半日という短い滞在だったので、先生にお願 いして5日間ほど遺伝研に滞在させてもらいました。その間に研究室で実験したり、学生さん達の話を聞いたりしたうえで、総研大遺伝学専攻の受験を決めたの です。(※編集註 国立遺伝学研究所は総合研究大学院大学・生命科学研究科・遺伝学専攻として、大学院生の教育を行っています)
遺伝研は研究環境がいいですね。具体的には、設備が整っている、研究室ごとのテーマが面白いなど。実験につまずいたときには先生やポスドクに意見を伺える雰囲気があり、教授や助教との垣根の低さがいいところだと思います。
13歳のとき研究者だった父の仕事の関係で、中国の瀋陽からつくばに来ました。瀋陽の人口は700万人くらいでしょうか。だいたい同じ緯度である札幌と姉妹都市なんですが、内陸だから札幌より寒いです。
もともとインドアが好きなので、どこにいても暮らしていけるんです。三島の第一印象を強いて言えば、思ったより田舎でしたね。三島は伝統のある町だから か、道路が狭く自転車で走りにくいです。だから最近は徒歩通勤なのですが、歩いていると電線ばかりで街路樹が少ないことに気づきました。つくばは、学園都 市として整備されているせいか、道路が片側3車線で広々としているし、街路樹がとても多かった気がします。
インドア派の僕ですが、たまには運動だってしますよ。屋内スポーツですが。総研大を卒業するまで、遺伝研バドミントン部の部長をしていました。今は後輩に 部長の責を譲り、月に2回くらいプレイしています。多いときは12、3人集まりますが、人数があまり集まらないときでも、調整しながら楽しんでいます。
また、クラシックからヒップホップに至るまで、幅広いジャンルの音楽を聴いています。三島ではなかなかナマの音楽が聴けないので、文化的なものが足りないと思ったら、東京や横浜に行きます。交通費がコンサート代より高くなってしまうこともありますが…。
研究は、やっぱり結果が出ると楽しいですよね。失敗することも多いですが、キーとなるようなデータがうまく出た時には、わくわくどきどきします。逆に、実験で失敗が続く時は、プライベートがいくら充実していても気分はどんよりしてしまいます。
これからについては、基本的に、1カ所には留まらない方がいいと考えています。日本にもずいぶん長いこと住んだし、研究者としてやっていくためにはもっと英語力を磨いた方がいいと思うので、せっかくの機会だし海外に行きたいです。
20年後の自分の姿・・・どうでしょう(笑)。イメージしづらいですが、やっぱり研究に携わっていたいですね。わくわくどきどきできる世界にいつづけたいと思っています。
音声おこしおよび翻訳:三浦智香子(総務・教育チーム)
(2013年11月 掲載)