川上 浩一 教授(かわかみ こういち)

産みの苦しみと研究の楽しさ

世界の研究室に、遺伝子を組換えたゼブラフィッシュを提供
「フィッシュルーム、見たこと無いでしょ?」 そう言って川上先生が案内してくれた部屋には、床から天井ちかくまで水槽がびっしりと並べられ、たくさんのゼブラフィッシュが泳いでいた。圧巻だ。(写真参照)「ここには遺伝子を組換えたゼブラフィッシュが1000系統くらいいます。たとえばある系統は脳だけが緑色に光り、別の系統は心臓だけが緑色に光る。そういう『トランスジェニックフィッシュ』を自在に作る技術を開発したのが僕の仕事です。ここまで来るのに10年かかりました。」
川上先生は1994年、アメリカのマサチューセッツ工科大学留学を機に、研究対象を単細胞生物からゼブラフィッシュに変えた。当時、日本でゼブラフィッシュを研究している人はまだ数人しかいなかった。「新しいモデル生物だったので、これに賭けるつもりで選びました。ゼブラフィッシュは胚発生の過程で細胞が変化していく様子が全部見える。これはとても美しいです。」川上先生が作り出したトランスジェニックフィッシュは、自分たちの研究で使う以外に、世界中の研究者に送られて様々な研究に用いられている。「効率のよいトランスジェニックの方法を開発し、世界中にゼブラフィッシュを送っている。私たちは基礎研究をしていますが、そうやって研究が広がることで、回りまわって人の役に立てばいいなと思っています。」
忘れられない瞬間
「アメリカから帰ってからの4、5年、ペットショップで安い水槽を30個くらい買ってきて、ほとんど1人で実験していました。GFPというタンパク質をゼブラフィッシュの体のいろいろな場所で効率よく光らせるための研究でね。2001年ごろ、蛍光顕微鏡を見ていて脳の一部が光る魚が最初に見えた時は、力が抜けました。『これで何とかなる!』と思った。その瞬間、今の大規模なフィッシュルームを持つことが予想できました。」1人で大変だったのでは?と聞くと、意外な答えが返ってきた。「いや、1人って結構いいんです。全部自分でコントロールできるから。お金も人もないと工夫するし。やらなくていいことは徹底的にそぎ落とすから、やることが洗練されるんです。ただ自分の実験技術は100%確かじゃないとお話にならない。」
産みの苦しみ
研究者は大変だ、と川上先生は言う。「研究って物書きとか芸術家と同じで、産みの苦しみを味わわないといけないんですよ。何も無いところから自分で考えてやらないといけない。それに耐えられる人じゃないと。そこでどうやって何かを産み出すかは他人からはアドバイスできないしね。」さらに、生物系の研究は面白くなるまで時間がかかるのだそうだ。「まず最初は実験が下手。下手だと何をやっているんだかわからないんですよ。実験が悪いのか、考えが悪いのか区別できない。自分の実験技術が100%確かだと思えて初めて、研究が面白くなる。だからドクター出るまでは修行と思ってがんばるしかない。そういう覚悟をしていると少しは見方が変わるかな?」
講演会では、ゼブラフィッシュの生命活動を、生きたまま観察するライブイメージング技術を中心に話す予定だという。顕微鏡で観察された美しく興味深い画像も見ることができるので、ぜひ会場に来てほしい。
(田村佳子 インタビュー 2011年)
国立遺伝学研究所 公開講演会2011 「 知りたい! 生命科学の最先端 」
2011年11月5日(土)12:30~16:30/秋葉原コンベンションホールにて開催しました。
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