細胞建築研究室 木村研究室 林 華子さん

林 華子

他大学院の修士課程を修了後、総研大の遺伝学専攻博士後期課程に入学し、木村研究室で学んだ林華子(はやしはなこ)さん。修士課程までの研究テーマとは、手法も内容もまったく異なる研究をおこなっている木村研究室への進学を選択した彼女は、0からのスタートにも関わらず、3年間でスムーズに学位を取得し、2011年に卒業した。そんな彼女が卒業後に選択したキャリアは研究職。理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(CDB)で研究を続ける彼女に、遺伝研に入学した理由、遺伝研の魅力、研究職を選択した理由についてインタビューした。

遺伝研は「分野が違っても、面白いものは面白い」といえる環境

なぜ、遺伝研に来たのですか?
木村先生の形作りへのアプローチの仕方、細胞生物だけでなく、工学や物理的な概念も取り入れた研究方針にとても惹(ひ)かれて入学しました。私は、大学のときは、ナノテクノロジーの分野でものを測定する、分析装置の基盤をつくる、という研究に従事していたのですが、生物に興味があったので、修士のときに、細胞生物物理をやっている研究室に移動しました。生物への興味は子供のころから持っていたんです。たとえば、磯遊びや山で出会う動植物の多様で複雑な構造は、どうやって出来るのか不思議に思っていて。その気持ちがだんだんと細胞や生き物の形が機能にどのように繋(つな)がっているか、関連が知りたいと思う気持ちへと発展していきました。なので、木村先生の論文に出会った時、考え方にすごく共感して、ここで研究したいと思いました。だから、遺伝研のことはあまり知らずに、木村先生の研究室がある遺伝研に来た、というのが実情です。
工学や物理的な概念も取り入れた研究方針とは、どのようなものですか?
「細胞内にどのようなデザイン原理が存在するのか」「デザインを決定する力学的な基盤は何か」を理解するというものです。じつは、私の形作りへの興味の原点は、レゴブロックにあるんです。小さいころはもちろん、いまでも時間があるときによく遊んでいるのですが、同じ部品を組み立てても、さまざまな形が出来上がるところが面白い。生き物が建築物と大きく違うところは、ダイナミックに形を変えることですが、このデザインの原理を解き明かそうとする木村先生の研究方針は、とても刺激的でした。入学後にわかったことですが、木村先生もレゴ好きらしく、ルーツが似ているのかもしれません。
入学後の遺伝研の印象、学生生活はどうでしたか?
そうですね。教育熱心な先生が多い気がしました。木村先生とはディスカッションを沢山しましたし、他にも、プログレスレポート(※1)や、ポスターセッション(※1)のように、遺伝研全体に自分の研究を知ってもらえるチャンスが多く、そこから、つねにフィードバックがある。あと、カリキュラムの1つ、英語の授業(※3)でも自分の研究を披露する機会が実は隠れていて。この授業では英語でのプレゼンテーション方法を学ぶのですが、題材として自分の研究を使うのです。学生だけでなく、誰でも参加できるので、「分野が違っても、面白いものは面白い。面白いことがあったら、国籍とか職階とか関係なく、みんなで話す。」という雰囲気がありました。 正直、この授業で英語力が飛躍的にアップしたという実感はないのですが(笑)、英語で研究発表したり、議論することへの免疫はつきました。在学中に参加した海外の学会で積極的に議論できたのは、この授業のおかげかな、と思っています。

いろんなタイプの研究者がいる。私も自分のスタイルを貫きたい

ポスドクは就職口がない、とか、企業に就職したほうが収入が高い、と言われていますが、卒業後、研究職を選んだ理由はなんですか?
そうですね。私も、企業への就職は意識してはいます。でも、まだ研究でやりたいことがあるので。面白いこと、こういうことを見つけたい、っていうのを実現できる場所で研究を続けたいと思っています。やりたいことに挑戦できる場所が海外にあるなら、留学してみたいです。
自分の研究室を運営している女性が少ないということで、大学や研究所では男女共同参画の活動が積極的におこなわれていますが、林さんは、この点に関してどう思っていますか?
男女の違いは、ほとんど意識したことがありません。遺伝研にはいろんなタイプの研究者がいます。例えば、グイグイ引っ張っていくタイプの人がいるし、芯があって地道に研究を続けている人もいる。女性の先生も、もちろんいる。なので、私も他人の目を気にしすぎず、自分のスタイルを生かして研究していきたいと思っています。

何度でもやり直せる。研究が楽しい人には、遺伝研を勧めたい

遺伝研の魅力はどこだと思いますか?
セミナーには普段あまり話せない先生や研究員の人も熱心に参加しているので、自分の専門分野外のプロフェッショナルな人たちとすぐ話せる、垣根無くふれあうことができるというのは、とても魅力的だし、凄いことだと思っています。この環境のおかげで、研究の内容だけでなく、研究することの意味や、研究者としての生き方について考えさせてくれる、よき先輩方に出会うことができ、とても感謝しています。一方三島には、都会的な娯楽は少ないですね。私は山登りが好きなので、みんなで山に行ったり、温泉に行ったりと、この環境をかなり満喫しましたが(笑)。
最後に、未来の遺伝研生に一言お願いします。
進路選択は、私もとても悩みました。学生時代は何度でもやり直せる、細かいプラス点やマイナス点を計算しすぎず、魅力を感じる道に気負わず進めば良い、と思っていますが、最後の決断は、いろいろな方向から考えて、悩みぬいたあとに、自分への言い訳をする余地を残さないものにする必要があると思います。研究が楽しいと感じる人なら、総研大・遺伝学専攻への進学を選択肢の一つにいれてみるとよいかもしれませんね。

聞き手には、研究室間の垣根のほとんどないという遺伝研の特性と、林さんが心がけているという「発言の真意を知るために、先入観を持たず人の話をよく聞く」という姿勢が共振しているように見えた。林さんが楽しみながら研究を続けられる秘訣(ひけつ)は、気負わず自然体で、論文発表、海外研究者との交流、就職などに取り組んできた結果なのだろう。軽やかな足取りで研究者としてのキャリアを踏み出した林さんが、夢をかなえる日を楽しみに待ちたい。

[脚注]

※1:プログレスレポート
遺伝研の「一人一人の大学院生を全教員で指導する」という理念に基づき、行われている教育制度のこと。学生の希望も考慮して選ばれる4人の教員(プログレス委員と呼ばれる、指導教官は含まない)により組織される小委員会が、学生の研究計画、進捗などについて、個人面談や口頭発表などを通じ直接討論や助言をおこなうことで、視野の広い研究者の育成を行っている。
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※2:ポスターセッション
遺伝研研究者全員の前で自分の研究をポスター発表する会。年2回開催。プログレス委員以外の教員や他の研究者に自分の研究内容と説明し、議論することで、さまざまな助言を得ることができる。
※3:英語の授業
科学プレゼンテーションや科学的議論の技能の修得を目的としたプログラム。英語を母国語とする講師による対話的演習が中心。英語の語学的側面だけでなく、科学者に必要となる論理的な考え方の強化も目的としている。
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