2024/04/19

東アジアのハツカネズミが明かす進化の秘密
~亜種間交雑によるゲノム進化のメカニズムを解明~

Inference of selective force on house mouse genomes during secondary contact in East Asia

Kazumichi Fujiwara, Shunpei Kubo, Toshinori Endo, Toyoyuki Takada, Toshihiko Shiroishi, Hitoshi Suzuki, Naoki Osada

Genome Research 2024 April 18 DOI:10.1101/gr.278828.123

プレスリリース資料

北海道大学大学院情報科学研究院の長田直樹准教授、国立遺伝学研究所の藤原一道特任研究員(同大学大学院情報科学院博士後期課程(研究当時))、理化学研究所バイオリソース研究センターの高田豊行開発研究員、城石俊彦センター長らの研究グループは、北海道大学大学院地球環境科学研究院などとの共同研究により、日本列島や中国などの東アジア地域から集められた野生ハツカネズミの全ゲノム配列を多数決定し、東アジアにおける野生ハツカネズミの遺伝的多様性とその進化の歴史を明らかにしました。

人類の活動により世界中に広がったハツカネズミは、南アジア周辺に起源をもち、三つの主要な亜種に分類されます。これらの亜種は、人類とともにそれぞれ別の経路を通って世界中に拡散し、その後、亜種集団同士の二次的接触を起こしました。今回の解析では、日本列島及び中国南部で広く亜種間雑種が形成されていることが示されました。また、二つの亜種が異所的に分布しているにもかかわらず、一方の亜種がもつ特定の型のY染色体が東アジア全体に急速に広まったことが示されました。そのメカニズムとして、X染色体とY染色体の対立による性比のゆがみが原因であるという仮説が立てられました。さらに、日本のハツカネズミにおける遺伝的構造は、免疫関連遺伝子や嗅覚受容体/フェロモン受容体遺伝子を含む特定の領域で一方の亜種からの影響を強く受けており、これが雑種ゲノムにはたらく自然選択や性選択によるものであることが示されました。

本研究では、ハツカネズミが人間の活動を通じてどのように遺伝的特徴を形成し、亜種間での遺伝的混合がどのように進行しているのかについて、新たな見解を提示しました。野生ハツカネズミのゲノム解析は、人間と密接に関連する他の生物種の進化を理解する上での重要な手掛かりとなることが期待されます。

本研究は、文部科学省新学術領域(複合領域)「ヤポネシアゲノム」及び学術変革領域(A)「統合生物考古学」の助成を受けたものです。

なお、本研究成果は、2024年4月19日(金)公開のGenome Research誌に掲載されました。

遺伝研の貢献
マウス開発研究室(小出研究室)の藤原一道特任研究員は、北海道大学の長田直樹准教授、理化学研究所バイオリソース研究センターの城石俊彦センター長、高田豊行開発研究員と協力し、主に東アジアで捕獲された野生のハツカネズミの全ゲノム配列を解読しました。
この研究に使用された野生ハツカネズミのサンプルの多くは、国立遺伝学研究所の故・森脇和郎名誉教授が世界中で収集した「森脇バッテリー」からのものです。以前はこの収集サンプルについて、ミトコンドリアDNAの一部を対象にした研究を行っていましたが、今回の研究では全ゲノムの解読により、より深い遺伝学的分析が可能となりました。さらに、Y染色体の遺伝学的分析を通じて、あるハツカネズミの亜種のY染色体が東アジアで急速に広がったことや、亜種間の雑種が形成される過程で自然選択や性選択が重要な役割を果たしていることが示唆されました。

図: 全ゲノム解析を用いて可視化した、東アジア地域のハツカネズミの遺伝的多様性。緑色が南方由来であるcastaneus亜種の遺伝的成分の強さを表している。


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