2014/06/13

違った性質の攻撃行動には異なる遺伝子が関与する

マウス開発研究室・小出研究室

Genetic mapping of escalated aggression in wild-derived mouse strain MSM/Ms: association with serotonin-related genes

Aki Takahashi, Toshihiko Shiroishi, Tsuyoshi Koide Frontiers in Neuroscience Front. Neurosci., 11 June 2014; doi:10.3389/fnins.2014.00156

野生由来マウス系統であるMSMのオスは過剰な攻撃性を示します。マウス開発研究室の高橋阿貴助教らは、その過剰な攻撃行動の調節にかかわる遺伝子が少なくとも2つの染色体に存在し、それぞれの遺伝子は異なった性質の攻撃行動に関与していることを明らかにしました。また、この高い攻撃性にはセロトニン神経系に変化が生じていることを示しました。

 マウスのオスは自らのなわばりを守るために、侵入者のオスに対して攻撃行動を示します。これは、相手を追い払うことが目的で、けがを負わせたり殺したりしてしまうことは、実験用マウスではほとんどありません。一方、日本の三島市で捕まえられた野生マウスを系統化したMSM系統のオスは、高い攻撃性を示し、離乳後にオス同士を一緒に飼育していると、性成熟後に激しいけんかが起こり、兄弟や、ときには交配相手であるメスを殺してしまうことがあります。このMSMの高い攻撃性に関わる遺伝子座を明らかにするために、哺乳動物遺伝研究室で作出されたコンソミックマウス系統群を用いて、順遺伝学的な手法を用いて解析を行いました。 コンソミックマウス系統とは、ほとんど全ての遺伝子は実験用マウスのC57BL/6J系統と同じなのですが、1種類の染色体(全部で21種類ある染色体のうちの1つ)のみMSM系統に由来するものを持っている系統です。コンソミック系統群の解析を行うことによって、私たちはMSMの高い攻撃性に関わる遺伝子が、4番染色体と15番染色体上に存在することを明らかにしました。また、それぞれの染色体が行動に及ぼす効果を調べることで、違った性質の攻撃行動にかかわっていることがわかりました。MSM型の4番染色体を持つコンソミック系統は攻撃をひとたび始めてしまうと、異常に高いかみつき行動や追いまわし行動を行い、交配相手のメスに傷を負わせるような個体も存在しました。一方、MSM型の15番染色体を持つコンソミック系統は、多くの個体が攻撃を開始しやすい傾向にあるのですが、攻撃を始めてもその頻度はそれほど高くないという特徴を持ちました。 攻撃行動には脳内のセロトニンが関与することが多くの研究から報告されています。今回、私たちはMSMとコンソミックマウス系統の脳内のセロトニン関連遺伝子の発現を調べ、MSMや高い攻撃行動を示すコンソミック系統において、セロトニンの合成酵素であるTph2遺伝子の発現が増加しており、セロトニン神経系に変化が生じていることも明らかにしました。 今回の研究は、攻撃行動の調節に関わる遺伝子がそれぞれ違った性質の攻撃性に関与しており、その遺伝的基盤の複雑さを示しています。今後、攻撃行動と遺伝子の関係をより深く理解する上で重要な情報をもたらしてくれると考えられます。

Figure1

コンソミックマウス系統を用いたMSMの過剰な攻撃行動に関わる遺伝子座の探索


リストに戻る
  • X
  • facebook
  • youtube