Sexual life cycle establishes the unicellular red algae Cyanidiophyceae as a genetically tractable model for eukaryotic evolution.
Shunsuke Hirooka, Takayuki Fujiwara, Mark Seger, Soichi Inagaki, Shota Yamashita, Dai Tsujino, Ryo Onuma, Yu Kanesaki, Satoru Watanabe, Yuu Hirose, Ryudo Ohbayashi, Mari Takusagawa, Baifeng Zhou, Reiko Tomita, Fumi Yagisawa, Peter Lammers, Atsuko H Iwane, Shin-ya Miyagishima.
The Plant Cell 38(7): koag148, 2026 DOI:10.1093/plcell/koag148
The Plant Cell 2026年7月号の「In Brief」に選ばれ、Matteo Pivato博士による解説記事「The hidden life of unicellular red algae: discovery of a common sexual cycle unlocks a model lineage for eukaryotic evolution」で紹介されました。
我々ヒトを含む真核生物に広くみられる有性生殖は、減数分裂と受精(接合)によって遺伝的多様性を生み出す生命現象で、真核生物の進化に貢献してきたと考えられています。その過程で、真核生物は多様な系統へと分岐し、共通祖先から受け継いだ基本的な仕組みを保持しながらも、それぞれの系統で多様な形質を進化させてきました。こうした真核生物の共通性や多様性を理解するためには、様々な生物の形質やゲノム情報の比較に加え、モデル生物を用いた分子遺伝学的な機能解析により、その分子基盤を明らかにすることが重要です。しかし、現在のモデル生物は動物や植物を中心とした限られた系統に偏っており、多くの系統では研究基盤が十分に整備されておらず、真核生物全体の進化の理解は依然として限定的です。
このような背景のもと、我々は植物と共通の葉緑体起源をもつ紅藻類の一系統である単細胞性のイデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に着目し、研究を進めてきました。本綱には、日本発のモデル生物であり、遺伝的改変技術が確立されているシゾン(Cyanidioschyzon merolae)が含まれます(Kuroiwa et al. (Eds.) Cyanidioschyzon merolae: A New Model Eukaryote for Cell and Organelle Biology. 2018; Miyagishima and Tanaka., PCP, 2021)。また、イデユコゴメ綱は植物系統の進化初期に分岐し、数億年から十数億年前にかけて分岐した培養可能な4属(Galdieria、Cyanidium、Cyanidiococcus、Cyanidioschyzon)を含むことから、植物進化を理解する上で重要な系統と考えられます。しかし、長い研究の歴史にもかかわらず、シゾンを含むイデユコゴメ綱において有性生殖は観察されておらず、その生活環の全貌は明らかではありませんでした。また、シゾン以外では、遺伝的改変技術を含む研究基盤は十分に整備されていませんでした。
我々は2022年にイデユコゴメ綱の一種 Galdieria において有性生殖を発見しました(Hirooka et al., PNAS, 2022)。さらに今回、培養可能なイデユコゴメ綱の4属すべてに共通して、細胞壁をもつ二倍体と細胞壁をもたない一倍体が交互に現れる有性生殖サイクルを明らかにしました。加えて、高品質なゲノム情報やトランスクリプトーム情報、遺伝子改変技術などの研究基盤を整備し、イデユコゴメ綱の有性生殖サイクルの制御には、転写抑制に関与するヒストン修飾H3K27me3や、植物で花成や細胞分化の制御に関与することが知られている転写因子が重要な役割を果たすことを明らかにしました。
本研究により、イデユコゴメ綱は植物系統のみならず真核生物全体の生命現象とその進化を理解するための新たなモデル系統として確立されました。今後、多様な真核生物との比較研究を通じて、真核生物進化における共通性や多様性に関する新たな知見が得られることが期待されます。
本研究は、科研費(23K05882、24H00579)、およびJST未来社会創造事業(JPMJMI22E1)の支援を受けて行われました。

イデユコゴメ綱で明らかになった有性生殖サイクル。(A)シゾンの二倍体(上段)と一倍体(下段)の顕微鏡写真。スケールバー: 5 μm.(B)イデユコゴメ綱に共通して観察される生活環の模式図。細胞壁をもつ二倍体は内生胞子形成により、細胞壁をもたない一倍体は二分裂により、それぞれ無性的に増殖する。一倍体同士の接合により二倍体が形成され、二倍体は減数分裂によって再び一倍体を生じる。模式図上部には、細胞質で緑色蛍光タンパク質Venusを発現する細胞の蛍光像を示した。スケールバー: 2 μm.