特集──国立遺伝学研究所と桜

研究者の情熱と取り組み 半世紀超えて受け継がれ

遺伝研のサクラの父・竹中要博士の愛称にちなんで名づけられた「半兵衛白紅桜(はんべえしろべにざくら)」

ソメイヨシノの祖先 交配と観察で突き止める

国立遺伝学研究所(遺伝研)の桜は、1950年頃、植物遺伝学者の竹中要博士(1903~1966、写真下左)が研究と品種保存を目的に収集・植樹したことに始まります。博士は10年以上にわたる研究により、ソメイヨシノが野生種のオオシマザクラとエドヒガンの雑種であることを突き止めました。当時の遺伝学は主に交配と観察に頼っていたため、発見には長い年月を要しました。近年では、コンピューターを用いたゲノム(遺伝情報)分析技術により、博士の結論が遺伝子レベルでも裏付けられ、ソメイヨシノのDNA配列の多くがエドヒガンとオオシマザクラに由来することが確認されています。現在、遺伝研では桜の様々な品種のゲノムを明らかにする研究がスタートしました(小出剛准教授インタビュー記事)。研究者たちの情熱が、長く遺伝研の桜を支えてきました。

竹中要博士
野生種の一つ、オオシマザクラ

野生種・オオシマザクラ 完全ゲノム配列の解読に成功

日本の春を彩るサクラの中で、ひときわ存在感を放つオオシマザクラ。その完全なゲノム配列を国立遺伝学研究所(遺伝研)と森林総合研究所(森林総研)を中心とする「サクラ100ゲノムコンソーシアム」が解読に成功しました。研究チームは、伊豆大島にある樹齢800年以上といわれる国の特別天然記念物「大島のサクラ株」をサンプルとして使用し、高度なゲノム解析技術によりオオシマザクラの全染色体構造を明らかにしました。

プレスリリース:サクラ研究の新時代到来 オオシマザクラの完全ゲノム配列を公開

オオシマザクラ(桜株)の完全ゲノムの模式図。8本の染色体すべてについて、染色体の構造が明らかになった。外側のサークルは各染色体をあらわし、青いボックスはセントロメア、青い丸はテロメアを示している。多重の線は以下のゲノム配列を示している(外側から2番目:GC塩基の比率、3番目:遺伝子分布、4番目:ノンコーディングRNA遺伝子、5番目:LTR配列、6番目:TIR配列、7番目:LINEおよびSINE配列、8番目:Helitron配列。
写真提供:伊豆大島ジオパーク推進委員会
サクラのゲノム解析に取り組む小出剛准教授(右)

遺伝研の桜を支えて データや書籍で深く知る

公益財団法人    遺伝学普及会

国立遺伝学研究所(遺伝研)の桜の管理を受託しています。樹木医や職員が状態を確認したり、草を刈るなど細やかな手入れをしています。遺伝研にはボランティアグループ「遺伝研さくらの会」があり、桜を管理する活動も行っています。

写真付解説書    遺伝研のさくら

公益財団法人 遺伝学普及会が発行しました。遺伝研の桜を網羅・解説しています。2023年の第6版は12年ぶりのリニューアル。2018年、日本国内の野生の桜として100年ぶりに新品種となった「クマノザクラ」も掲載。

データベース    サクラ100ゲノムII

研究プロジェクト「サクラ100ゲノム」で解析されたサクラのゲノム情報を活用し、明らかにされた全ゲノムの特徴と形質をデータベース化。 全国の博物館で収集されている生物多様性情報と連携、全国のサクラの遺伝学的特徴を明らかにします。 

地元の人々に親しまれ 研究と桜を楽しむ一般公開

国立遺伝学研究所は毎年4月、年に1度の一般公開を実施します。地元・静岡県三島市を中心に遺伝研は「桜の名所」として知られており、この日は咲き乱れる桜、研究者による最先端の研究展示、講演を楽しむため、多くの人々が来所します。2026年はあいにくの雨でしたが、約2300人が訪れました。

雨の中、桜を楽しむ人々=2026年4月

桜を通した社会連携 日本各地でサクラ研究も

福島県三春町の国指定天然記念物「三春滝ザクラ」。樹齢1000年とされる=2026年4月

国立遺伝学研究所は2026年4月2日、福島県三春町と、樹齢1000年とされる国指定天然記念物「三春滝ザクラ」のゲノム(全遺伝情報)解読に向け、包括連携協定を締結しました。同町の坂本浩之町長、同研究所の近藤滋所長が、同町役場で開かれた締結式に出席。桜保全のための学術研究を進めることで一致しました。

記事:樹齢1000年・三春滝ザクラ、遺伝研がゲノム解読で包括連携協定

お問い合わせ先

国立遺伝学研究所では、桜を通じた地域・社会連携を進めたいと考えています。ご質問は広報室(prkoho@nig.ac.jp)までお寄せ下さい。