研究成果

【プレスリリース】プロモーター配列を持たないDNAオリゴヌクレオチドからサプレッサーtRNAが発現 ― 早期終止コドンを読み飛ばす新たな手法、ナンセンス変異疾患への応用に期待―

多階層感覚構造研究室(研究当時)

DNA oligonucleotides encoding suppressor tRNA induce readthrough of premature termination codon

Haruka Yamamoto, Peixin Zhu, Keisuke Yonehara

Molecular Therapy Nucleic Acids DOI: 10.1016/j.omtn.2026.103110

プレスリリース

 遺伝子のナンセンス変異⑴は、タンパク質の設計図であるmRNAに、本来の終止コドンよりも前にタンパク質合成を終了させる「早期終止コドン(premature termination codon:PTC)」⑵を生じさせ、正常なタンパク質が作られなくなる原因の一つです。近年、PTCを「読み飛ばして」タンパク質合成を継続させるサプレッサーtRNA⑶を利用した治療法が注目されていますが、体内での安定性や細胞・組織への送達が課題となっています。

 今回、国立遺伝学研究所の山本悠研究員(現・横浜市立大学医学部 助教)、Peixin Zhu外来研究員、米原圭祐教授(現・横浜市立大学医学部 教授)らの研究グループは、培養細胞を用いた実験により、サプレッサーtRNAの配列を持つ短い一本鎖DNAオリゴヌクレオチドを細胞に導入することで、細胞内で機能的なサプレッサーtRNAが産生され、PTCを読み飛ばして、その遺伝子から作られるタンパク質の機能を回復できることを明らかにしました(図)。さらに、DNAオリゴヌクレオチドからサプレッサーtRNAが産生される過程に、RNAポリメラーゼIIIによる転写が関与することを示しました。本研究は、DNAオリゴヌクレオチドを利用した新たなサプレッサーtRNA発現技術を提示するものであり、ナンセンス変異を原因とする遺伝性疾患に対する新たな核酸治療法の開発につながる可能性があります。

図:本研究の概略図。サプレッサーtRNAの配列を持つ一本鎖DNAオリゴヌクレオチドからサプレッサーtRNAが産生され、ナンセンス変異によって生じた早期終止コドンを読み飛ばすことが可能となる。その結果、完全なタンパク質が作られ、タンパク質の機能回復につながる可能性がある。

用語説明

(1) ナンセンス変異
DNAの変異によって、アミノ酸を指定するコドンが終止コドンに変化する変異です。これにより、タンパク質の合成が途中で終了し、正常な機能を持たない短いタンパク質が生じる場合があります。

(2) 早期終止コドン(Premature Termination Codon:PTC)
本来の終止コドンよりも前に生じた終止コドンです。ナンセンス変異によって生じ、タンパク質の合成を本来より早く終了させます。

(3) サプレッサーtRNA(Suppressor tRNA)
通常はタンパク質の合成を終了させる終止コドンを認識し、対応するアミノ酸をタンパク質に組み込ませる転移RNA(tRNA)です。早期終止コドン(PTC)を「読み飛ばす」ことで、途中で停止したタンパク質の合成を継続させることができます。