Rapid genome-wide purging following tsunami-induced hybridization in a stickleback population
Takuya K. Hosoki, Seiichi Mori, Kotaro Kagawa, Shotaro Nishida, Manabu Kume, Atsushi J. Nagano, Hiyu Kanbe, Ryo Kakioka, Kenta Nakamoto, Yuki Iino, Masafumi Kodama, Satoki Oba, Taekyoung Seong, Naoki Kabeya, Asano Ishikawa, Kohta Yoshida, Yo Y. Yamasaki, Jun Kitano
Nature Ecology & Evolution DOI: 10.1038/s41559-026-03184-1
現在、地球上に存在する多様な種は、種分化を繰り返すことで生み出されてきました。異なる集団の間に遺伝子の交換を妨げる仕組み(生殖隔離)が蓄積すると、やがて別の種になります。生殖隔離が完全でない場合には、環境変化によって交雑が生じますが、たとえ交雑したとしても異種のゲノムが排除されれば種の境界は維持されます。しかし、交雑後に異種由来のゲノム領域がどのように排除され、どのような生殖隔離によって種の境界が維持されるのかは、これまでよく分かっていませんでした。
2011年の東日本大震災による津波は、生物の生息環境を大きく変えました。岩手県大槌町の中心部は、10 mを超える津波に襲われました。津波は淡水性魚類のイトヨと海洋性魚類のニホンイトヨを町の中心部へと運んだと考えられています。津波直後、町の中心部は淡水性の湿地へと変貌する中で、ニホンイトヨとイトヨは接触し、異種間交雑が起こりました。
生態遺伝学研究室の細木拓也博士(現・北海道大学)と北野潤教授を中心とし、国立遺伝学研究所(遺伝研)、北海道大学、岐阜協立大学、京都大学、石巻専修大学、名古屋大学、慶應義塾大学、東京大学、東京海洋大学などからなる研究グループは、この交雑集団を9 年間追跡しました。その結果、2012 年には採集個体の38%が雑種で、ニホンイトヨ由来のゲノム領域が集団中に存在していました。その後、ニホンイトヨ由来のゲノム領域は10 世代の間にゲノム全体から急速に減少し、2020 年までに集団のゲノム構成はほぼイトヨになったことを明らかにしました。また、淡水への適応、海への移動、配偶相手の選択、雑種雄の不妊に関わる主要な生殖隔離遺伝子座に加え、ゲノム各所に存在する多数の遺伝子がわずかずつ影響を及ぼす遺伝的不適合も、この急速な変化に寄与した可能性が示されました。
本研究は、自然集団で交雑直後から10 世代にわたるゲノム変化を追跡し、種の境界がどのように維持されるのかを実時間で明らかにした世界でも例の少ない研究です。
本研究は、日本学術振興会科研費・地域中核・特色ある研究大学強化促進事業、JST CREST、環境省環境研究総合推進費、国立遺伝学研究所 NIG-JOINT、東京大学大気海洋研究所共同利用・共同研究拠点、日本河川財団河川基金、公益財団法人日本科学協会笹川科学研究助成、岩手県「アクションプラン」事業、旭硝子財団の支援を受けて実施されました。

図1.2011年の東日本大震災によって形成された湧水池と交雑集団
左:2011年の東日本大震災に伴う津波と地盤沈下によって岩手県大槌町に形成された湧水池(撮影:森誠一)。
中央:この池で発見されたイトヨとニホンイトヨの交雑集団(撮影:細木拓也)。
右:津波によって海洋性のニホンイトヨが、引き波によって河川上流の淡水性のイトヨが湧水池へ運ばれ、両種が接触し、異種間交雑が生じたと考えられる模式図(イラスト:木下ちひろ)
北野潤教授と細木拓也博士のコメント
「この研究では、2つの大きな驚きがありました。まず、津波後に交雑が生じたことは我々の先行研究によって分かっていたのですが、まさか生殖隔離に関わるニホンイトヨのゲノム領域が、数年という短期間の間にこの集団から排除されているとは予想していませんでした。第二に、ニホンイトヨのゲノムの大部分がその後の世代にわたって消失し続け、9年後には、ほぼ全ゲノムに渡ってイトヨになったことに驚きました。次の重要な課題は、全ゲノムに渡って異種のゲノムが排除されるメカニズムの解明です。それを解くことで、種分化を完成に導く要因を知りたいです。」