研究成果

イトヨの『鎧』は寒い環境で有利なのか?―屋外メソコスム実験で検証―

北野研究室・生態遺伝学研究室

No evidence for temperature-dependent selection on lateral plate variation in the three-spined stickleback: a single-replicate mesocosm experiment. Canadian Journal of Zoology in press

Hiyu Kanbe, Yo Y. Yamasaki, Takuya K. Hosoki, Susanne Bröcker, Bo-Jyun Chen, Haruka Yamazaki, Seiichi Mori, Osamu Kishida, and Jun Kitano  

Canadian Journal of Zoology 21 August 2026 https://doi.org/10.1139/cjz-2026-0023

イトヨの体側には「鱗板」と呼ばれる骨化した板状の構造があり、その数は生息環境によって大きく異なります。海のイトヨは鱗板が発達しており、淡水に進出したイトヨでは退化するという収斂進化が世界各地で生じています。しかし、淡水における鱗板の退化は、全ての淡水域で生じるわけではなく温暖な地域でよく観察されます。そこで、冬の温度環境が鱗板数の多様性に関係している可能性が示唆されていましたが、これまでに検証実験はなされていませんでした。

そこで生態遺伝学研究室の神部飛雄研究員(現・静岡大学)と北野潤教授の研究グループは、鱗板の少ない岐阜県のイトヨ淡水集団(ハリヨと呼ばれる)と、鱗板の多い北海道のイトヨ太平洋集団を交配して得た雑種を用い、さまざまな鱗板数をもつ個体を温暖な静岡県三島市と寒冷な北海道苫小牧市の屋外メソコスムに放流しました。メソコスムとは、野外の生態系の一部を水槽などの中に再現した実験系です。通常の室内飼育実験よりも自然に近い温度変化や餌環境のもとで生物を飼育しながら、条件をある程度管理できるという特徴があります。本研究では、冬季を含む約5ヶ月間飼育を行い、生存や成長、生殖腺の発達など、適応度に関連する指標と鱗板数との関係を調べました。

その結果、寒冷な苫小牧のメソコスムに放流された魚では三島のメソコスムに放流された魚と比べて生存率が低く、成長や生殖腺の発達が遅延していました。一方、生き残った魚の鱗板数には両地点で有意な違いがなく、鱗板数と成長や生殖腺の発達などとの間にも明確な関連はみられませんでした。

これらの結果から、今回の実験条件では、鱗板数の違いに応じて適応度に差が生じる明確な証拠は得られませんでした。鱗板数の進化には、温度だけでなく、捕食や餌資源など複数の生態的要因の相互作用が関与している可能性が示唆されました。

本論文は、Canadian Journal of Zoologyの「Celebrating three decades of stickleback research」の一部として掲載されました。本研究は、科研費(22H04983、21H02542、22KK0105)、JST CREST(JPMJCR20S2)、日本学術振興会特別研究員奨励費(26KJ0142、23KJ0008)、JSPS Program(JPJS00420230001)、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター森林圏ステーション共同利用(2024_37_D)および国立遺伝学研究所インターンシッププログラムの支援を受けて実施されました。

左は温暖な静岡県三島市、右は寒冷な北海道苫小牧市に設置した屋外メソコスム。同時期に撮影。