研究成果

環境変動は救いか脅威か? 進化の二面性

山道研究室・理論生態進化研究室

The double-edged effect of environmental fluctuations on evolutionary 

Shota Shibasaki and Masato Yamamichi

Evolution(2026) DOI:10.1093/evolut/qpag034 

(本論文は、Evolutionの6月号のEditor’s Choiceに選ばれました)

人間活動によって、生物は気温の上昇や淡水域での塩分濃度の増加など、さまざまな環境悪化にさらされています。こうした変化の中で、生物が迅速に進化することによって絶滅を免れる現象は「進化的救助」と呼ばれています。これまでの研究は、環境が一定のペースで変化する場合を主に扱ってきましたが、実際の自然環境では、環境の平均値だけでなく、ばらつきの大きさ(変動幅)も同時に変化しています。

本研究では、環境悪化の際の変動幅が生物の進化にどのように影響するのかを明らかにするため、淡水性植物プランクトンであるクロレラ(Chlorella vulgaris)を用いて実験を行いました。12週間かけて培養液中の塩分濃度を徐々に上昇させる実験において、変動幅を変化させた条件間で、クロレラの増殖速度を比較しました。その結果、実験終了時の塩分濃度においては、変動幅が大きい環境を経験したクロレラの増殖速度が最も遅くなりました。一方、実験終了時よりもさらに高い塩分濃度で培養すると、逆に変動幅が大きい条件で進化したクロレラほど増殖が速くなるという、正反対の結果が得られました。

数理モデルによる解析でも同様の傾向が確認されたことから、環境変動は生物の進化を「阻害」することもあれば、「促進」することもあるという、二面性を持つことが示されました。本成果は、環境が生物の適応進化に与える影響の複雑さを示すとともに、生物多様性の保全において「環境の平均値」だけでなく、「変動の大きさ」も考慮することの重要性を示唆しています。

本研究は、国立遺伝学研究所新分野創造センター、日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号:JP19K16223, JP20KK0169, JP21H02560, JP22H02688, JP22H04983)、科学技術振興機構CREST (課題番号:JPMJCR23N5)、稲盛財団、オーストラリア研究評議会 Discovery Project(課題番号:DP220102040)の研究助成を受けて実施されました。

塩分濃度を上昇させながらクロレラを12週間培養した。この時、塩分濃度の増加量が一定のもの(橙)、増加に伴う変動幅が小さいもの (水色)、変動幅が大きいもの (緑)の三つの条件を用意した。これら三条件間で増殖速度を比較したところ、実験最終週の増殖速度(右上)と、さらに塩分濃度が高い条件下での増殖速度(右下)とで、速度の優劣が逆転する結果となった。

 画像クレジット:フラスコのイラストは TOGO Picture Gallery(https://doi.org/10.7875/togopic.2011.9)、塩のイラストは Servier Medical Art(https://smart.servier.com/smart_image/salt-shaker/)を使用しています。いずれもCreative Commons Attribution 4.0 International License(CC BY 4.0)に基づき利用しています。