鐘巻研究室・分子細胞工学研究室
豊田研究室・比較ゲノム解析研究室
MCM10 and RECQL4 have cooperative and redundant roles in activating the CMG helicase during the replication initiation
Atabek Bektash, Xiaoxuan Zhu, Yuki Hatoyama, Atsushi Toyoda and Masato T. Kanemaki
Genes & Development DOI:10.1101/gad.353714.126
私たちの体をつくる細胞が増殖するためには、遺伝情報を担うDNAを正確にコピーする「DNA複製」が必要です。DNA複製を開始する際には、二本鎖DNAをほどく「CMGヘリカーゼ」と呼ばれる分子モーターが形成され、これが活性化されることでDNAのコピーが始まります。しかし、ヒト細胞においてCMGヘリカーゼがどのように活性化されるのか、その仕組みは十分に分かっていませんでした。
本研究では、私たちが開発してきた「オーキシンデグロン技術」を用いて、DNA複製に関わるMCM10とRECQL4という2つのタンパク質をヒト細胞から迅速に除去し、その役割を調べました。その結果、どちらか一方を除去した場合にはDNA複製への影響は比較的軽度でしたが、両方を同時に除去するとCMGヘリカーゼを形成できるにもかかわらず、それを活性化できず、DNA複製が著しく阻害されることが分かりました。この結果はMCM10とRECQL4がCMGヘリカーゼの活性化に寄与することを示しています(図1)。

さらに解析を進めた結果、MCM10とRECQL4は互いに協力するとともに、一方が欠けた際にはもう一方がその機能を補うことが明らかになりました。特に、両タンパク質が持つ一本鎖DNAに結合する能力が、CMGヘリカーゼの活性化に重要であることが分かりました。
以上の結果から、MCM10とRECQL4が協調的かつ相補的に働き、DNAをCMGヘリカーゼ内部から引き出すことでヘリカーゼを活性化するという新しいモデルを提唱しました(図2)。この成果は、ヒト細胞がDNA複製を開始する基本原理の理解を大きく進めるものです。

本研究は科研費(JP21H04719, JP23H04925, JP25H00979)およびJST CREST(MJCR21E6)のサポートにより実施されました。ゲノミクス解析にあたり、先進ゲノム支援(PAGS, JP22H04925)並びに遺伝研スーパーコンピューター施設の支援を受けました。Atabek Bektashは国費外国人留学生として本研究に従事しました。
用語説明
オーキシンデグロン(AID)技術:
鐘巻研究室が開発したタンパク質分解技術。植物が持っているオーキシン依存的分解システムを、異種細胞に移植することにより作られました。改良型のAID2は酵母、培養細胞、線虫、マウスなど様々な細胞や動物に応用されています。
CMGヘリカーゼ:
DNA複製の際に、二本鎖DNAを1本鎖に巻き戻す機能を持つ。CMGヘリカーゼが1本鎖DNAを作り出すことにより、DNAポリメラーゼがDNA合成を行うことができる。
MCM10:
酵母からヒトまで保存されているDNA複製に関与するタンパク質。ヒトMCM10がどのようにDNA複製に関与するかはよく分かっていませんでした。
RECQL4:
ヒト細胞のDNA複製に関与すると考えられていたが、どのようにどのようにDNA複製に関与するか、これまでよく分かっていませんでした。RECQL4の変異はロスムンド・トムソン症候群などの遺伝病を引き起こすことが知られています。