Transcriptomic and epigenetic responses to androgen in throat skin tissue of the three-spined stickleback.
Genta Okude, Jun Kitano
Philosophical Transactions of the Royal Society B 381: 20250019 DOI:10.1098/rstb.2025.0019
生物を見渡すと、雌雄で繁殖に関わる装飾が大きく異なっていることがあります。例えば、トゲウオ科のイトヨは、繁殖期になるとオスの喉が赤くなります(図1)。チャールズ・ダーウィンが性選択の概念を提唱したことで有名な「人間の由来(The Descent of Man)」の著作にも、『筆舌に尽くし難い美しさ』と記されています。また、動物行動学という新しい分野を確立し、ノーベル賞を受賞したニコ・ティンバーゲンは、イトヨの赤い婚姻色はメスを惹きつける鍵となる刺激であることを行動実験によって示しました。このイトヨの示す赤い婚姻色は、繁殖期にオスの血中で上昇するアンドロジェン(男性ホルモン)というホルモンの作用で生じることは知られていたものの、その詳細なメカニズムは不明でした。
このたび、生態遺伝学研究室の奥出絃太博士(現・東京大学助教)と北野潤教授は、アンドロジェンによる遺伝子発現のエピジェネティック制御機構を解析し、Philosophical Transactions of the Royal Society Bに成果を報告しました。
まず、皮膚を含む複数の組織でアンドロジェンに応答して発現の上昇する遺伝子を網羅的に同定しました。例えば、赤い色素の発現に関与することが知られているTtc39b遺伝子は咽頭部の皮膚で、アンドロジェンシグナル増幅に関与すると思われるGreb1に類似したGreb1lは複数の組織で発現が上昇することを見出しました。さらに、クロマチンアクセシビリティ(タンパク質がDNAにどの程度アクセスできるかというクロマチンのほぐれ具合)の変化が、これらの遺伝子発現変化の一部と関連していることを見出しました。すなわち、繁殖期のオスだけに限って遺伝子発現を誘導する仕組みに、アンドロジェンによるエピジェネティックなクロマチン状態の制御が関わっていることを示しました。
本研究は、科研費(22KJ3096, 22K15168, 22H04983)やJST CREST (JPMJCR20S2)の支援を受けて実施されました。

図1 繁殖期のイトヨの頭部(上がオス、下がメス)