Temperature-dependent photostasis and nitrogen limitation in streamlined-genome red algae Cyanidiophyceae from natural habitats
Dai Tsujino, Takayuki Fujiwara, Shota Yamashita, Kei Tamashiro, Jin Izumi, Fumi Yagisawa, Baifeng Zhou, Shunsuke Hirooka, Yuki Sunada, Kintake Sonoike, Shin-ya Miyagishima
The ISME Journal, Volume 20, Issue 1, January 2026, wrag105 DOI:/10.1093/ismejo/wrag105
世界各地の火山地帯にある硫酸酸性温泉には、「イデユコゴメ(出湯小米)類」と呼ばれる単細胞紅藻が生息しています。これらの藻類は、pH 2前後という強酸性環境に加え、20–50℃近い幅広い温度帯で生育する極限環境生物です。本研究では、この藻類が大きく異なる温度環境の中でも光合成色素を失わず、青緑色を保ったまま光合成を維持できる仕組みを明らかにしました。
一般に、光合成生物は低温になると増殖や代謝が低下します。一方で、光エネルギーの吸収は温度の影響を受けにくいため、細胞内では「使い切れないエネルギー」が過剰に発生します。その結果、活性酸素種が生じ、光合成装置や細胞そのものを損傷させる危険があります。そのため多くの植物や藻類は、低温環境では光合成色素を減らし、光の吸収量自体を抑えることでダメージを回避しています。
ところが、草津温泉のイデユコゴメ類は異なっていました。野外観測と培養実験の結果、20–25℃では増殖がほぼ停止するにもかかわらず、クロロフィルやフィコシアニンなどの光合成色素量はほとんど減少せず、至適温度である40℃付近で増殖している細胞と同程度の光吸収能力を維持していました。つまり、「成長は止まっているのに光エネルギーは吸収し続ける」という、一見すると非常に危険な状態にあったのです。
解析の結果、この藻類は余剰エネルギーを“調節型の光防御”ではなく、より非制御的な形で散逸させるとともに、活性酸素の除去や細胞修復へエネルギーを振り分けることで、光エネルギーの吸収と処理のバランスを保ち、低温時のダメージを抑えていることが分かりました。一方、高温側では増殖速度の上昇に伴って、生育に必要な窒素源の不足が生じるなど、温度によって異なる課題に直面していました。つまりイデユコゴメ類は、「低温では酸化ストレス、高温では栄養制限」という異なる問題に対処しながら、広い温度範囲で光合成を維持していることが明らかになりました。
本研究は、極限環境に適応した真核生物の生存戦略を理解するだけでなく、シンプルな光合成システムがどのように環境変動へ適応するのかを示す成果です。さらに、初期の光合成真核生物がどのように地球環境へ適応してきたかを考える上でも重要な知見になると期待されます。
本研究は、日本学術振興会 科研費(22H02651、23H04961、24H00579、24KJ0224、25KJ1330)、科学技術振興機構 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2104)、および未来社会創造事業(JPMJMI22E1)の支援を受けました。

図:草津温泉に生息するイデユコゴメ類と低温・高温環境での様子
(A)草津温泉において、高温条件下で活発に増殖しているイデユコゴメ類マット(左)と、低温条件下で増殖がほとんど停止しているマット(右)。低温期には水流によってマットが減少するものの、岩の隙間などにイデユコゴメ類が生存していることを示す顕微鏡写真を右パネル内に示す。
(B)イデユコゴメ類の生息環境調査を行う大学院生の辻野さん。
(C)培養温度ごとの顕微鏡写真。低温(20°C)でも適温(40°C)でも、細胞の形態や色はほとんど変化しない。