クロマチンの「液体のり」として働くリンカーヒストンH1

ゲノムダイナミクス研究室

Linker histone H1 functions as a liquid-like glue to organize chromatin in living human cells

Masa A. Shimazoe, Jan Huertas#, Charles Phillips#, Satoru Ide, Sachiko Tamura, Stephen Farr, S. S. Ashwin, Masaki Sasai, Rosana Collepardo-Guevara*, Kazuhiro Maeshima* #equal contribution; *corresponding authors

Science Advances(2026)DOI:10.1126/sciadv.aec9801

Science Advances 4月10日号の表紙に採用されました

 プレスリリース資料

ヒトの細胞1個には全長2メートルにも及ぶDNAが収納されています。これは、ゴルフボールほどの大きさに8キロメートルのひもを押し込むようなものです。いったいどうやって、そんな長いDNAを小さな核に収納し、しかもギチギチな状態で生命活動を維持しているのでしょうか?この収納に関わる重要な分子が「リンカーヒストンH1」です。分子生物学の教科書では、H1がDNAの特定の場所に結合し、規則的にらせん状に折りたたみ、30ナノメートル線維と呼ばれる「かたい」構造をつくることでDNAを圧縮する、とされてきました。しかし近年、細胞の中にはこのような30ナノメートル線維がほとんど存在しないことが明らかになってきました。では、H1は本当はどのようにDNAを圧縮しているのでしょうか?

このたび、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 島添將誠 総合研究大学院大学 大学院生 (学振特別研究員DC1)と井手聖 助教 (現 東京科学大 助教)、田村佐知子 テクニカルスタッフ、前島一博 教授のグループは、インド ガンジー工科経営大学GITAMのS. S. Ashwin准教授、京都大学 笹井理生 研究員と共同で、生きた細胞内をナノメートルレベルで可視化できる超解像蛍光顕微鏡を用い、生きたヒト細胞の中で、H1のふるまいを観察・解析しました。また、イギリス ケンブリッジ大学のJan Huertas博士研究員、Charles Phillips大学院生、Stephen Farr博士研究員、Rosana Collepardo-Guevara教授のグループと共同で、分子動力学シミュレーションでH1がどのようにふるまうのかを調べました。

その結果、H1は「液体のり」のようにクロマチン(DNAとタンパク質の複合体)をゆるやかにまとめ、不規則で「やわらかい」構造を作っていることが分かりました。この構造は流動性をもち、他の分子が入り込みやすくなっています。つまり、DNA情報の読み出し(転写)や複製、修復といった生命活動は、この「やわらかさ」に支えられているのです。

本研究は、教科書を書き換える発見であり、DNAに関わる様々な研究分野に大きなインパクトを与えることが期待されます。また、H1の機能の変化が引き起こす異常や関連疾患の理解につながることが期待されます。

本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科研費(JP23K17398, JP24H00061, JP22H00406, JP21H02535, JP22H05606, JP24KJ1161)、武田科学振興財団、UK Government’s Guarantee scheme (EP/Z002028/1): European Research Council (Consolidator Grant)、UK High-End Computing Consortium for Biomolecular Simulation(EP/R029407/1)、Herchel Smith Postdoctoral Fellowship、UKRI Postdoctoral Fellowships Guarantee scheme(EP/X02332X/1)の支援、および国立遺伝学研究所NIG-JOINT(4I2023)の支援を受けました。

EurekAlert!

これまで、H1はヌクレオソームに安定に結合し、規則的な「かたい」構造を作ってクロマチンを凝縮させると考えられていた(図左)。今回の研究で、H1はダイナミックにヌクレオソームに結合し、「液体のり」のように働いてクロマチンを凝縮させ、不規則な「やわらかい」構造を作ることがわかった(図右)

(左):超解像蛍光顕微鏡により観察された生きた細胞の核内におけるリンカーヒストンH1の動画。(右):分子動力学シミュレーションによるヌクレオソームとリンカーヒストンH1の相互作用の再現。赤:DNA、黄:ヒストン、青:リンカーヒストンH1。リンカーヒストンH1は複数のヌクレオソームをつなぎながら、ダイナミックに動いている。