葉緑体から進化を解き明かす~細胞内共生が鍵となる

宮城島 進也教授
遺伝形質研究系 共生細胞進化研究室
葉緑体から進化を解き明かす~細胞内共生が鍵となる
葉緑体から進化を解き明かす~細胞内共生が鍵となる

光合成を行う葉緑体。この細胞小器官は、大昔、細胞に住みついたシアノバクテリアだ。なんと、別個の生物が細胞に取り込まれ、その細胞の部品になったのである。葉緑体を獲得した単細胞性の藻類は、さらにその後、別の単細胞生物に取り込まれ、葉緑体はさまざまな系統の真核生物に広がっていくこととなった。では、どのようにして、そのようなことが起きたのだろうか。宮城島進也教授は、現代の藻類を用いて、太古の昔に起きた葉緑体誕生と伝搬の謎を解き明かし、生命進化の仕組みに迫ろうとしている。

Profile

東京大学理学部卒業。2002年 東京大学大学院理学系研究科 博士取得。2003年 ミシガン州立大学 博士研究員、2006年 理化学研究所(理研)フロンティア研究システム独立主幹研究員(チームリーダー)。2011年 国立遺伝学研究所(遺伝研) 新分野創造センター 特任准教授を経て、2015年より同遺伝形質研究系 教授。受賞歴:2002年 日本植物形態学会奨励賞、2004年 日本植物学会奨励賞、2005年 The Early Career Award, American Society of Plant Biologists、2017年 日本学術振興会賞。

共生により葉緑体を獲得し、多様な藻類と植物が誕生した

面白いと思うことを研究する──多くの研究者同様、宮城島もそうしてきた。まず面白いと思ったのは、「葉緑体」。細胞内で複雑に形を変えたり、2つにちぎれて分裂したりする様子に興味をひかれ、大学院時代に研究を始めた。そして、20数年後、今も葉緑体は彼の興味の中心でありつづけている。

葉緑体は、光合成を行う細胞小器官で、藻類や植物の細胞に含まれている。葉緑体とミトコンドリアが他の細胞小器官と違って特別なのは、それらがもともと別個の生物だったということだ。つまり、葉緑体の場合は、約10億年前、シアノバクテリアという光合成を行う細菌が、別個の単細胞生物の細胞内に丸ごと取り込まれ、共生し、やがて葉緑体に変化したと考えられている。このようにして葉緑体を獲得した藻類から、やがて植物が進化していったのだ。

また、これらとは少し違うやり方で葉緑体を獲得した生物も存在する。葉緑体を持つ藻類の細胞そのものを自らの細胞内に取り込んで共生させることで、葉緑体を獲得したという生物だ。ミドリムシや渦鞭毛藻などをはじめ、さまざまな単細胞生物がこのやり方で葉緑体を獲得し、真核生物の多様な系統に葉緑体が広がっていった。

「葉緑体の獲得は光合成を行う生物の誕生につながり、生物の進化にとって非常に大きな出来事でした」と、宮城島は解説する。

では、別種の生物を取り込んで自らの細胞の部品にするとは、どのような過程を経て、それは起きたのだろうか。詳しい過程を明らかにしたい。宮城島は、光合成を行う細胞(共生体)とそれを取り込んだ細胞(宿主)による共生の仕組みを解き明かすことで、その仕組みを解明したいと研究に取り組んできたのである。

単細胞の藻類が“最高”の実験パートナー

硫酸酸性温泉の石に付着している単細胞紅藻イデユコゴメ類

実験材料としては、単細胞の藻類をメインに用いている。単細胞の藻類との出会いは、大学院時代。通称「シゾン」と呼ばれる種類の藻類を用いた葉緑体の増殖の仕組みの研究である。葉緑体は、祖先のシアノバクテリアと同じように分裂することで増えるが、当時は、分裂の仕組みそのものが、よくわかっていなかったのだ。

なお、藻類という呼称は、いくつかの分類系統にまたがる生物グループの総称で、このシゾンは真核生物の紅色植物門に属する。紅藻はその名の通り赤色のものが多いが、シゾンは、進化の過程で赤色の色素を失ったため、鮮やかな青緑色をしている。

藻類は一般に増殖が速く、実験材料に適している。さらに、シゾンは、葉緑体とミトコンドリアを1つずつしか持たず、細胞内構成が単純であり、細胞壁がないため顕微鏡下での観察や成分の抽出が容易、という特徴がある。明期と暗期を繰り返して培養することで、細胞とその中にある葉緑体の分裂時期をコントロールすることもできる(同調培養)。

イデユコゴメ類の一種であるシゾンの顕微鏡写真。緑の部分が葉緑体で一つの細胞に一つ含まれる。いくつかの細胞においては葉緑体が分裂中。

また、シゾンのゲノムサイズは、光合成を行う真核生物としては最小クラスに属するので、遺伝子レベルでの研究も行いやすく、大学院を修了するころには、真核生物の藻類として初のゲノム解読プロジェクトが行われ、宮城島はこれにも参加している。その後、ポスドクや理研時代を通じて、陸上植物であるシロイヌナズナをはじめ、さまざまな生物種を用いて葉緑体の実験を行い、シゾンで見つかったことのうち、基本的な事象は陸上植物にも当てはまることなどを明らかにしてきた。しかし、遺伝研に着任した10年ほど前から、再び単細胞の藻類を研究材料に用いることにした。「葉緑体が細胞内共生により、どのように進化してきたのかを探ろうとする目的に対しては、単細胞の生物が最も実験しやすいと、いろいろ経験した結果、改めて認識したのです。また、これまでシゾンを含め、多くの真核生物の藻類では遺伝子操作技術が使えなかったのですが、10年ほど前に、それが可能になったことも大きな理由です」と、藻類へ戻った訳を説明する。

確かに、太古の昔、シアノバクテリアが共生した相手は単細胞の生物だったはずであるし、葉緑体を調べる上では、葉や花などの器官に特殊化した細胞を用いるよりも、単純で均一な単細胞生物のほうが扱いやすいであろう。いずれまたそのような機会もあるかと、細々と続けていたシゾンなどの単細胞藻類の培養と研究に、宮城島は本腰を入れることにした。

葉緑体を獲得したことで受ける影響

遺伝研に着任した宮城島は、単細胞藻類を用いてどのように研究を進めたのだろうか。「単細胞生物(宿主)と光合成を行う細胞(共生体)が、進化の過程で互いにどのように影響を及ぼし合ったのか、その点に着目して研究を行うことにしました。特に、光合成をする細胞が共生することで、宿主の細胞の成長や増殖に何か制約が生じたりしないだろうか。それを探ったのです」。ちなみに、それ以前は、大学院、ポスドク、理研時代を通じて、進化の仕組みに直結する研究というよりも、増殖の仕組みを探ることに焦点を合わせていたそうだ。宿主となった細胞が、その中に共生することで誕生した葉緑体の増殖を、どのようにコントロールしているのか、またその機構はどのように進化したのかという視点から研究を進めたものだったという。

教員インタビュー「ミトコンドリアと葉緑体 ~異種細胞の共生と進化の謎」のリンクはこちら

上植物では、細胞分裂をする器官と光合成を行う器官を別にすることで、活性酸素種の発生に対処しているのだが、単細胞の藻類ではそのようなことはできない。そこで詳しく調べてみると、単細胞藻類では、細胞分裂と光合成のタイミングを別にすることで対処していることがわかった。宿主である単細胞藻類の細胞分裂は、光合成が行われる昼間を避け、夜に行われるようにタイミングが調節されていたのだ。

物質やエネルギーのやり取りに着目して共生関係の進化を解明する

遺伝研で研究を進めるうちに、宮城島は、葉緑体の進化の過程を解明するには、2つの観点から切り込むことが重要だと気がついた。まず1点目は、エネルギーや物質のやり取りに着目すること。「シアノバクテリアや単細胞藻類の宿主細胞への共生が、もともとどのように始まったかというと、宿主細胞との間での物質やエネルギーのやり取りが発端だったのだろうと思うからです」。

例えば、共生シアノバクテリアが合成した光合成産物(糖)を、宿主細胞が取り出して利用するとか、シアノバクテリアの出す廃棄物を宿主細胞が処理するとか、逆に宿主細胞が共生シアノバクテリアに光合成の原料を供給するとか、何かしらそのような関係が共生関係の始まる時点からあったにちがいないと推測されるからだ。

共生の途中段階の生物を調べる

また、現在の葉緑体だけを調べるのではなく、共生関係が構築される途中の段階にある単細胞生物群(宿主単細胞生物と共生体単細胞生物)を研究対象に加えることも必要だろうと考えるようになった。これが2つ目の観点である。現在の葉緑体は、十数億年前に誕生した後、進化により改良が今も続いていると考えられる。だから、共生が始まり、やがて細胞内小器官しての葉緑体が成立した過程を知るには、現在の葉緑体だけを調べていても十分ではないだろう。

でも、共生の途中段階の生物群は、どうしたら手に入るのだろうか。宮城島は、「自然界でごく普通に見られますよ。あちこちの池に行って水を汲んだら、藻類を共生させているゾウリムシなどが簡単に採集できますよ」と言う。

葉緑体を持たない単細胞生物のなかには、葉緑体を持つ単細胞藻類を捕食するものがいる。さらには、捕食した藻類をしばらく生かしておいて光合成を行わせ、エネルギーを得たのちに、最終的に消化してしまうというちゃっかりものもいる(盗葉緑体現象と呼ばれる一時的な共生)。また、都合のよいときにだけ藻類を細胞内に共生させて光合成を行わせるものもいる(任意共生)。

これらの単細胞生物群を用いて、細胞内に取り込まれた藻類と宿主細胞の各代謝経路の状態を解析したり、光合成を行う昼と行わない夜で状態を比較したりすれば、共生の各段階における、代謝物質やエネルギーのやりとりを調べることができるはずである。さらには、捕食、一時的共生、任意共生と、葉緑体との絶対共生関係にある単細胞藻類を比較し、宿主となる細胞がそれぞれの共生関係を維持するために、どのような遺伝子群や機構を新たに獲得したかを調べれば、葉緑体がどのように誕生したかわかるのではないかと、宮城島は期待している。

このような一時的共生や任意共生の生物群を研究に用いるには、「適した生物群を採集し、まず実験室での培養法を開発するところから始める必要があります」。すでにいくつかの生物群で、培養法を確立できており、例えば、シアノバクテリアを食べる原生生物アメーバ(捕食)、クリプト藻という単細胞藻類を細胞内に取り込み数週間の間光合成を行わせる渦鞭毛虫類(一時的な共生)などの培養法が確立され、これらの生物を用いた解析の成果も出始めているという。

微生物を環境ごと切り取ってくることが重要

現地での採集活動と環境調査

「生物が生息している環境条件を考慮することが重要です」と宮城島は力説する。その共生関係は、どういう環境に適応して存在するのか、また、共生による進化の途中段階で代謝やエネルギーがどうなっているのかを解明するにも、その環境を知った上で実験しないと、正しいことを理解できないのではないか。代謝活性は環境の影響を大きく受けるし、生き物たち、さらには生物間の共生関係も、その環境に最も適応するように進化しているはずだからだ。

このように考えるようになったきっかけは、シゾンに似た新種の単細胞紅藻を発見したときの体験である。シゾンは、イタリアの複数の温泉水の混合物から単離されたものであり、もともとの生息地は不明である。あるとき、宮城島研究室のメンバーが、日本の温泉地に生息する藻類の写真を眺めていたときに、このシゾンとよく似た藻類が写っているのを見つけた。どこの温泉地の写真かわからなかったが、日本の各地の温泉水をインターネット経由で購入し、それに肥料を加えて培養してみたところ、大分県の温泉水から細胞壁のないシゾンに似た藻類が増殖してきたのだった。そこで、この藻類を実際に探そうと大分県の現地に行ってみたのだが、同様のものを見つけることはできなかった。しかしながら、念のためにと持ち帰った藻類を培養していると、藻類がある特殊な形式の分裂を行って、細胞壁のないシゾンに似た藻類を生じたのだ。ある特定の環境下で培養したときにのみ、それが生じるとわかったのである。おそらく、自然環境下では、季節変動などによって、ある特殊な環境条件がそろったときにのみ、シゾンと同じような形態が出現するのだろうと宮城島は推測している。

採取したサンプルは現地で直ちに観察

「生物の生息している現場では、実験に用いる既成の培養液中とは全然違うことが起きているのだと、このときに痛感しました。今後は、生物だけでなく、生物を環境ごと切り取ってくる研究をしなければダメだと」。それを踏まえて、宮城島研究室では現在、採集地の環境条件を詳細に把握し、培養時にはそれを再現するよう努めているとのことだ。各生物の採取地の温泉の水に含まれる成分を精密に知るため、専門の装置を用いた分析を、琉球大学の共同研究者に依頼しているほどである。しかしながら、一般的には微生物の分子生物学的な研究では、生息地の環境条件などを考慮した研究は、ほとんど行われていないのが現状だそうだ。

シゾンと国産新種藻類の産業応用に向けた研究も進める

すでに述べたように、シゾンは細胞壁がなく、増殖スピードが速いなどの実験材料としての利点も大きい。例えば分裂の仕組みを探る研究などには非常に適した生物である。さらに国内で見つかったシゾンに似た新種は、無性生殖と有性生殖の両方が可能で、その生息環境にもアクセス可能である。また、これらの単細胞藻類は、基礎研究ばかりでなく、産業における利用に関しても大きな可能性を秘めているようだ。

宮城島は、シゾンと国内で見つけた新種を、機能性食品や飼料として産業利用するための基礎研究を行うグループにも属しており、そのリーダーとして、すでに8年目を迎えている。シゾンのような微細藻類(個体の識別に顕微鏡が必要な藻類のこと)は、陸上植物に比べて光合成能力が高く、生育場所を選ばずに大量培養が可能なので、いくつかの種がすでに産業利用されている。「そうした微細生物に比べても、シゾンとこの新種はさらに優れた特徴を持ちます」。細胞壁がないことはもちろんであるが、さらに、セルフクローニング法(遺伝的改変法の一種)を開発できたことや、酸性水で増殖するので、他の生物の混入増殖の恐れがなく、屋外で大量培養できることなどである。

「産業利用に向けた研究は、最初は義務感が先行し、地に足がついていない感じで大変でしたが、3年を経過した頃から面白くなりだしました」という。今では、シゾン会議という名の国際会議が開かれるまでになっており、こうした研究のなかから、基礎研究へのヒントが見つかることもあるという。

一人で考えてもよいアイデアなんか出てこない

研究室にはどのようなメンバーを期待するかと尋ねると、「自分自身のオリジナリティを追求したい人」という答えが返ってきた。すでに多くの人がやっているのと同様の研究はやらないからという。さらに、「いろいろなことをやっている専門家と話して、人間関係を広げられる人」と続けた。

宮城島研究室では、今は感染症の流行で控えているが、夜、飲み物などを手に自由に語り合う機会が、週に2~3回ある。そのなかで、いろいろなアイデアが生まれてくるのだそうだ。こんなことがあったとか、学会でこんな話聞いたとか、皆で自由に話すうちに、これは大事ではないかなどと気がついていくのだという。冬に観察が難しい温泉地での藻類の様子を知るために、草津の定点カメラを利用したらどうかなどというアイデアも、そういう時に飛び出したとか。「私一人で考えていても、よい考えなんかは、そうは出てこないですよ」と宮城島は笑う。

「本人が最もやりたい研究をやればよい」、そして「自分が面白いと思うことは夢中になって研究できるはずだから、それでよい」。このような言葉を聞くと、研究室がバラバラなように思えるかもしれないが、そうではないと続ける。「メンバー同士で活発に議論をしたり、互いの研究を手伝い合ったりしていると、自ずと研究室全体として目指すところがいくつかの点に収束していき、研究室全体として設定する大きな課題に向かって、各メンバーが得意な点を生かしながら楽しく研究できるようになるのです」。教授としての役目は、「自分自身も研究の現場に立ちながら、各メンバーの進めている研究が、他の多くの生物種や研究分野にも波及する可能性があるかどうか、という点を見極めて、アドバイスすること。また、研究室全体として目指す点をうまく設定することです」。その生物種だけが持つ性質や特質を研究するのではなく、多くの生物種に共通するような原理のようなものを研究すべきと付言する。研究に使える時間もお金も限りがあるのだからと。

宮城島が、藻類の研究から植物全体に共通する原理が見えてくるような葉緑体を研究テーマに選んだのも、そのような信念に基づいた考えが背景にあるのだろう。さらに、藻類を用いた葉緑体の進化の解明からは、生命進化の仕組みまで見えてくるだろうと期待している。

聞き手:サイエンスライター 藤川 良子
写真提供:共生細胞進化研究室 宮城島 進也
写真撮影:リサーチ・アドミニストレーター室 来栖 光彦
2020年8月