あくなき探究の道、生物多様性のしくみに挑む

山道 真人准教授
新分野創造センター 理論生態進化研究室
あくなき探究の道、生物多様性のしくみに挑む
あくなき探究の道、生物多様性のしくみに挑む

生物多様性のしくみを解き明かすことはできるのだろうか。山道准教授は、種内および種間における進化と生態の複雑な相互作用に着目し、数理モデルや培養実験などの複数のアプローチを組み合わせ、生物多様性の包括的な理解を目指す。

Profile

2007年 東京大学 農学部 フィールド科学専修 卒業(学士(農学))。2012年 総合研究大学院大学 先導科学研究科 生命共生体進化学専攻 5年一貫制博士課程修了(博士(理学))後、米国コーネル大学 生態学進化生物学科(日本学術振興会 海外特別研究員)、京都大学 白眉センター/生態学研究センター(特定助教)、東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻(講師)、豪州クイーンズランド大学 生物科学科(上級講師)を経て、2023年4月より、国立遺伝学研究所 新分野創造センター・総合研究大学院大学 先端学術院 准教授。

多種共存のユニークなメカニズム

様な外的要因の影響を受けて、常に変化し続ける生物を理解することは、とても難しい課題です。まして、さまざまな生物が影響し合いながら共存し、多様性を織りなすしくみの理解ともなれば、その複雑性は途方もなく高まります。私たちの研究室では、こうした複雑な問いに対し、理論と実証を組み合わせたアプローチで挑んでいます。

例えば、さまざまな生物が同じ場所、同じ資源を共有しながら、共存できるのはなぜでしょうか。同じ資源をめぐって競争する複数の生物が存在すれば、いずれかの種が残り、他方は排除されるように思われます。しかし実際には、同じ時空間、資源を共有しながら多様な生物の共存が実現しています。一体そこには、どのようなしくみが働いているのでしょうか。私たちは生物の進化に着目し、生態学の分野において60年以上も議論例えば、さまざまな生物が同じ場所、同じ資源を共有しながら、共存できるのはなぜでしょうか。同じ資源をめぐって競争する複数の生物が存在すれば、いずれかの種が残り、他方は排除されるように思われます。しかし実際には、同じ時空間、資源を共有しながら多様な生物の共存が実現しています。一体そこには、どのようなしくみが働いているのでしょうか。私たちは生物の進化に着目し、生態学の分野において60年以上も議論の続くこの問いに迫る、一つの新たな理論をまとめました(*1)。

ある環境中で競争に優位な種は、個体数を増加させることができます。しかしその反面、同種の別個体と出会う頻度が高まり、種内での競争を強めることになります。種内の競争は、資源をめぐるものに限らず、交尾相手をめぐるオス同士の競争にも発展していきます。競争が激しくなると、競争に勝てるような性質を持つ個体が優位になっていきます。それは例えば、メスの気を引くために、体の一部に派手な色や飾りをつけることや、特徴的な踊りや鳴き声を身につけるといった形で表れることもあります。クジャクの上尾筒や極楽鳥の求愛ダンス、トナカイの巨大な角などは、その積み重ねにより生じた進化と捉えることができます。しかし、こうした特徴は種内の競争においては優位に働きますが、派手な姿や鳴き声は個体数の増加には貢献せず、捕食者を呼び寄せる新たなリスクを生むことにもなります。種間の競争を考えると、決して効率のよい進化とは言い切れません。

ある環境の中で卓越した種が現れると、異種との競争よりも種内の競争が強まり、後者に力を割くうちに他の種に対する優位性をなくしてしまうということが起こり得ます。こうした現象が積み重なることによって、結果的に多種の共存が実現しているのではないか、という理論を組み立てました。優位な種が自ら勢いを削ぐかのようなこの進化を、「ムダの進化」と表現して発表したところ、多くの方に注目していただきました。このように、私たちは進化という現象に着目して、生物多様性が維持されるメカニズムを探っています。

常識を覆した「迅速な進化」研究

動物プランクトンのツボワムシ

進化という現象の中でも、私たちは特に、環境に応じて比較的短い時間スケールで生じる進化に、大きな意味があるのではないかと考えています。

一般的に進化というと、ある種が別の種へと分化、枝分かれすることをイメージする人が多いと思います。それが大進化と呼ばれるのに対し、小進化という現象が存在します。

小進化とは、ある生物の集団の中で、遺伝子の頻度が変化することを指します。例えば、同種の生物集団の中に、遺伝的に性質の異なる2つのタイプ、AとBが存在したとします。AとBの個体数の比率が、1:3から1:2に変化する現象が起きた場合、その生物に小進化が生じたと言うことができます。大進化と小進化には一見大きなギャップがありますが、小進化が何度も積み重なることで大進化が起こるのではないか、と両者につながりを見出したのが、種の起源でお馴染みのダーウィンです。この考えは、非常に画期的なものでした。

近年この小進化が、これまで考えられていたよりも速いスピードで生じ、生物の個体数や密度に影響を及ぼすとともに、多種共存に大きく関与している可能性が見えてきました。私たちは、この進化を「迅速な進化」と呼んでいます。

植物プランクトンのクロレラ

迅速な進化の研究は、2003年に吉田丈人博士(現東京大学教授)らが発表し、ネイチャーに掲載された研究成果をきっかけに、大きく加速しました(*2)。

吉田博士らは、動物プランクトンのワムシと植物プランクトンのクロレラに十分な光を当て、ともに培養する実験を行いました。ワムシはクロレラを捕食して増殖し、ワムシが増えるほどクロレラの数は減っていきます。しかし、このときクロレラに、捕食に対して防御する遺伝的性質を持つ個体の比率の増加が生じました。その結果、捕食が十分にできなくなったワムシの個体数が減少すると、今度は、防御を持たない代わりに増殖が速い遺伝的性質を持つクロレラの比率が増えていきました。つまり、ワムシの捕食圧の増減により、クロレラに進化が生じ、それぞれの集団サイズと遺伝的構成を周期的に変動させていくのです。

生物の個体数が周期的に変動する現象はよく知られていましたが、個体数変動が観察されるような短い期間では、生物に進化的な変化は起きないものと考えられてきました。しかし、クロレラの遺伝的多様性が、環境に応じて速やかに、適応的に頻度を変える迅速な進化を起こし、周期的な個体数変動にも影響を与えることが示され、注目を集めたのです。これまで、生態学と進化生物学という2つの研究分野は、扱う現象の時間スケールが全く異なるものと見なされ、別々に考えられてきました。しかし実際には、進化が短期間に生じ、これが多種共存にも密接に関わり、影響していることが示されたということで、研究者の間で大いに盛り上がりました。

また従来、食うものと食われるものの関係や、種間の競争を論じることは、主に生態学の範疇にある一方で、進化生物学では、協力行動の進化やオス同士の闘争による進化など、種内相互作用を扱うことが多い傾向がありました。そこで、当時龍谷大学に所属していた近藤倫生博士(現東北大学教授)と私は、さらに両者をつなぐ研究ができないかという視点で、アイデアを練り、複数の研究者を巻き込んで行ったのが、ムダの進化の研究でした。

複雑性を理解する数理モデルという武器

生態学・進化生物学で用いられる数式とシミュレーション結果の例

現在、私が特に注目するのは、迅速な進化によって生じる「進化的救助」という現象と、生物の持つ「表現型可塑性」です。進化的救助は、環境変動に対して迅速な進化が起こることで、そのままでは絶滅するはずの生物が、絶滅せずに救助されるという現象です。迅速な進化は、遺伝子頻度の変化を指しますから、この現象は、対象の生物集団が持つ遺伝的多様性に由来します。

対して、環境に応じて柔軟に表現型を変えることで、生存率を高める戦略をとる生物もいます。例えば、植物プランクトンのイカダモは、捕食者のワムシが増えると、ワムシの出す化学物質を検知し、単細胞から2細胞、4細胞といかだのように連なった形質に変化します。サイズを大きくすることで捕食を免れるという、防御形質を持っているのです。これは、その生物が持つ表現型可塑性という性質であり、集団中に遺伝的多様性がない場合でも起こり得ます。

迅速な進化と表現型可塑性は、簡単に見分けがつかない場合も多いため、双方を対象に研究を進めています。種内に生じるこのような現象が、多様な生物の共存に同時に寄与している可能性があるのではないかと考えています。

しかし、こうした現象とその結果生じる生態系の変化を、実際の自然の中で立証することは、対象の複雑性と時間スケールの上でも困難を極めます。そこで、こうした仮説が成り立つことを示す理論研究を先行して行っています。その時に役立つのが、数理モデルです。

ある生物学的な現象を、数式で表現し、その数式がどのようなふるまいをするのかを示すのが数理モデルです。数式は、集団遺伝学の中で最も基本的なモデルと言われる、ライト・フィッシャーモデルや、微分方程式からなるロトカ・ヴォルテラモデルを基本に、進化による変動などの複雑性を取り込んで、独自の関数を構築しています。また、自らプログラミングを書いて、シミュレーションを行うことも多いです。生物学では、言葉によって記述された理論の研究も多いですが、数式で表すことによって論理がより明確になり、仮定に対する結果も明快に示すことができます。

ムダの進化や進化的救助は、傍証を集めて仮説を立て、数理モデルによって、理論上成り立ち得ることが示された現象です。次のステップでは、プランクトンなどを用いながら実験室での実証を試み、研究を前進させたいと考えています。遺伝研には、実験設備が整っていますので、理論と実証という双方のアプローチから研究を進めることができると期待しているところです。

2023年度の前半には、博士研究員がミカヅキモを使った実験を行いました。ミカヅキモは本来、塩分濃度が高く、pHの低い環境下では死滅してしまいますが、進化的救助でそれを防ぐことができるかを検証するという実験です。ミカヅキモは無性生殖で増えることもできますが、有性生殖を行うこともできます。有性生殖が行われると、遺伝的多様性が増え、進化的救助が起こりやすくなる可能性があります。そうした現象が実際に起こり得るのか、塩分濃度やpHをさまざまに組み合わせた環境下で観察しました。

数理生物学の魅力

ニューヨーク州イサカにあるコーネル大学のキャンパス

数学を駆使して生物の現象を追究する学問分野は、数理生物学や理論生物学と呼ばれ、1920年代頃から、数学や物理学の手法を生物学へ応用する形で発展してきました。特に米国の大学には応用数学の学部が置かれていることも多く、生物学と応用数学を兼任する教員もいます。そうした教員の元には、両分野からの学生が集まり、自ずと学際的な研究活動が展開されています。

私が学生として総研大に在籍していた頃には、機会があるごとに国内外のサマースクールに参加するなどして、そうした研究環境の違いに触れる経験を重ねました。卒業後は、日本学術振興会の海外特別研究員の制度を使って、米国ニューヨーク州にあるコーネル大学へと赴任しました。受け入れて下さったNelson G. Hairston Jr.博士(現コーネル大学名誉教授)は、主に湖のプランクトンを研究する陸水学の研究者でしたが、数理生物学を専門とするStephen P. Ellner博士(コーネル大学教授)にもお世話になりました。彼らの研究室で行った共同研究や、所属する博士研究員と2人でまとめた研究論文は、今に続く大きな成果となりました。

この時の研究テーマの一つは、「間接的な進化的救助」という現象で、捕食者の絶滅と存続に関わるものです(*3)。例えば、大きな環境汚染や漁獲圧などの高まりにより、捕食者が絶滅の危機に瀕しているとします。その時に、被食者側に防御を弱め増殖を速めるような適応進化が生じると、その進化に助けられる形で、捕食者が絶滅を免れるという現象を、間接進化的救助と名付けました。獲物の進化によって、捕食者が絶滅から救われるという現象は、一見直感に反するように思われますが、防御と増殖の間のトレードオフに沿った適応進化の事例が、実際に複数存在しています。

数理モデルを用いてこの現象を理論としてまとめて2015年に発表し、2019年にさらに共同研究によって理論を発展させた(*4)ところ、2023年に入って、ドイツの研究グループが培養実験による実証を成功させてくれました(*5)。一つの理論を皮切りに興味を持つ他の研究者たちとのつながりが生まれ、研究が次々と発展的に拡がっていくところも、理論研究の魅力の一つです。

生物学研究は、野外に出てフィールドワークを重ね、実際の生物を扱うことが研究の醍醐味とされることも多いでしょう。私自身も、学部を過ごした東京大学では、野外の研究活動に憧れて農学部のフィールド科学専修に進学した経験を持っています。フィールドを舞台に、ある特定の生物に見られる一つの現象を深く追究していくということも、研究の面白さの一つです。一方理論研究では、現象を抽象化することで、生物に働く一般的な法則を俯瞰的に捉えることや、長期的な進化の動きを一人の人間でも追いかけることができるのです。私は、こうした理論研究において一人の人間が扱えるスケールの大きさに、魅力を感じています。現在の研究を前進させるとともに、まだ歴史の浅い数理生物学の、国内での発展にも貢献していきたいと考えています。

理論から応用へ、膨らむ夢

遮光されたコーネル大学の実験池

私がこのように、生物や多様性に関心を持つようになったのは、三宅島で暮らしていた祖父母の元へ、よく夏休みに遊びに出掛けていたことがきっかけでした。そこにある自然とその保全に、漠然とした興味を抱いていました。

三宅島では、2000年6月から火山性地震が発生するとともに、8月には大規模な噴火と火砕流が発生し、全島避難の指示が出される事態となりました。当時、高校一年生だった私は、その中で破壊されていく自然を思って心苦しくなる一方で、火山の噴火もまた自然現象であることに思いを致し、守るべき自然とは何か、何が自然の在るべき姿なのか、ということを考えるようになりました。これは保全生態学においても、一つに答えを絞ることのできない難しい問いです。

現在の研究では、これまであまり注目されることのなかった小進化という現象が、生態学的にも大きな影響を与えている可能性が見出されています。また、数理モデルを用いて、生物の複雑な現象を表現し、理解する試みの有用性は言うまでもなく示されてきました。こうしたアプローチを重ねる中で、長期的にはこれらの知見を、絶滅危惧種の保全といった、保全生態学などへの応用にも役立てていきたいと考えています。

例えば、小進化は関わっていませんが、2018年に報告した、湖における水草と植物プランクトンの研究は、応用的な活用が期待できる成果の一つになりました(*6)。この研究は、光を遮ることで湖の生態系がどのように反応するかを調べたもので、光合成に依存する水草と植物プランクトンの関係に着目しました。コーネル大学には、縦横およそ30メートル、深さ1.5メートルの実験池が、広大な敷地の中に60個ほど設けられた場所があります。この実験池の一つに、プール用の遮光カバーを浮かべて、太陽光を遮断し、3ヵ月にわたる観測を行いました。そこで得られたのは、当初、減少すると予測されていた植物プランクトンが、増加するという意外な結果でした。

この複雑な結果を理解するために用いたのが、やはり数理モデルです。水草と植物プランクトンが、光と栄養塩をめぐって競争するという現象をモデル化していきました。湖底の水草は、強い光の下では競争に優位ですが、光が弱くなると劣勢に転じます。光が弱くなると、水草が独占していた栄養塩を得た植物プランクトンが、代わって優位に増加するという現象を表すことができました。

湖をはじめとする淡水系の生態系に光の量が与える影響は、あまり調べられていない研究テーマでした。この成果は、水質汚濁や水上太陽光発電の設置などによる遮光効果が、生態系へどのような影響を与えるのかを考える上で、有効な知見になりそうです。

同様に、生物が迅速に進化することで生物集団がどのように変化していくのかを追究することは、将来的に人の管理に対する生態系の応答を知る手掛かりとなります。簡単なことではありませんが、こうした知見を積み重ねていくことで、応用的に役立てられる道も開拓していきたいと思っています。

研究者を育てたい

そして、研究を進めることと同じく、大事にしたいと考えているのは、次世代の研究者を育てていくことです。生物は、とても複雑な研究対象です。私の世代や次の世代で、どこまで理解が進むかは分かりませんが、この分野で一緒に取り組んでいく研究者を増やしていきたいと考えています。

私も博士課程を過ごした総研大は、研究する場所であるというところが、大きな特徴です。研究をメインに行う教員たちと、密に過ごしながら経験を積むことができます。研究者になりたい、研究者として自立したいと考えている人には、お勧めできる環境です。

私の研究室では、学生の皆さんが自分のテーマをみつけ、さらに幅を広げるつもりで色々と挑戦してもらいたいと思っています。また、理論研究だけでなく、実験室もあり、博士研究員とともに培養実験などを行うこともできます。理論を実証するだけでなく、培養実験から、何かインスピレーションを得て数理モデルを作ってみるなど、実験と理論のフィードバックができるとより良い研究になると思います。

また、数理生物学者の良いところは、身軽に色々な国に行き、様々な人と話して研究を進めることができるという点です。机上で数理モデルを扱う研究は、人と話す機会の少ない研究と思われがちですが、逆に、人とのコミュニケーションの中で、多様に幅を広げることができる研究でもあります。国内外の研究者と対話を重ねる中で、新しいテーマや発見が生まれたり、多様な研究チームの一員となったりして、新しい挑戦ができる可能性も広がります。

私自身も、機会があるごとに多様な環境に身を置き、様々な人々と関わりながら、研究を進めてきました。仲間の間でやってみたいこと、やってみようと話していることが、実はまだまだたくさん控えているような状態です。

生物を理解したいという想いのある人、そのためのスキルを多角的に身に付けたいと考えている人は、ぜひ仲間になり、一緒に取り組んでいきましょう。

聞き手:ノンフィクションライター 西岡 真由美
写真撮影:遺伝研ORD 来栖 光彦
2023年5月