大沼 亮 [おおぬま りょう]

細胞の中にあるミトコンドリアや葉緑体は、いわば他人である別の細胞から取り込まれたものだという「共生説」。その共生説に高校の授業で出会い、驚きと疑問をまっすぐに追いかけ続けて遺伝研にやって来た大沼亮(おおぬま・りょう)研究員を紹介する。
受け入れ教員のひとこと
野外から自分で藻類をとってきて自分で調べるという文化を研究室にもたらしてくれました。研究室メンバーが培養のことで困っていると色々と手助けもしてくれて、感謝しています。
(共生細胞進化研究室 宮城島進也教授)
どんな研究をしているのですか。
細胞内共生がどのようなプロセスを経て進化してきたのかを知りたいと思っています。取り込んだ生物と取り込まれた生物とが、互いに相手がいないと生きていけないようになるまでには、いくつものステップがあるはずです。初めは餌として食べられた後すぐに消化されていた生物が、しばらく細胞内にとどまるようになり、やがてはその細胞内でしか生きられなくなる、といった具合です。実際に今の世界にも、それぞれのステップに対
応するような生物種のペアが見つかっていて、特に、捕食された生物の葉緑体がしばらく細胞内に保持される現象は「盗葉緑体(とうようりょくたい)」と呼ばれています。葉緑体を盗む「盗人」にちなんでヌスットディニウム属と名づけられた渦佃毛藻(うずべんもうそう)が、僕の研究材料です。
なぜこの研究をすることになったのですか。
高校生の頃に生物の授業で「葉緑体は、実はもともと別のバクテリアで、細胞に取り込まれて共生するようになった」という話を聞いた瞬間に「すごい」と思ったんです。そして大学の授業では「真核生物どうしが共生関係を確立し、葉緑体を得たものがいる」という話を聞いて、「これだ、 こういうことを研究したい」と思いました。ずっと、細胞内共生に魅力を感じて研究を続けています。
遺伝研に来るまではどんな研究をしていたのですか。

では、クリプト藻核が受け継がれた細胞では盗葉緑体が大きいまま保たれることがわかる。さらに、盗葉緑体の大きさは、クリプト藻核の大きさと相関していることもわかる。これらの結果は、クリプト藻核が盗葉緑体の維持に重要な役割を果たしていることを示唆している。
卒業研究を始めるときに「細胞内共生が確立するプロセスを研究したい」と希望したところ、研究材料として先生が紹介してくださったのがヌスットディニウムでした。
図 1 に示したヌスットディニウムの一種はもともと無色ですが、クリプト藻という藻類の一種を捕食して、細胞全体が青緑色になるほどの盗葉緑体をもつことがあります。
しかし培養が難しかったこともあり、葉緑体を取り込んでから失うまでのプロセスがどうなっているのかはまったく知られていませんでした。
そこで、安定した培養ができるように工夫するとともに、透過電子顕微鏡での観察を重ねることによって、このプロセスの記録に初めて成功しました(図 1)。この種が細胞分裂すると盗葉緑体も2つに分かれますが、捕食されたクリプト藻が持っていた細胞核(図 1 に赤色で示された「クリプト藻核」)はどちらかの細胞にしか受け継がれません。細胞分裂が繰り返されると、クリプト藻核をもつ細胞では盗葉緑体が大きいまま保たれますが、クリプト藻核をもたない細胞では盗葉緑体がだんだん小さくなってしまうことがわかったのです。
つまり、この種は、クリプト藻核にある遺伝子を発現させることによって盗葉緑体を大きく成長させているのではないかと考えています。
遺伝研博士研究員に応募したきっかけは何ですか。

大学院での仕事は主に電子顕微鏡を使った観察でした。自分の研究の方向性を考えたときに、観察だけではなく、分裂のメカニズムや遺伝子の働きにも踏み込んで研究していく必要があると感じていました。そして、葉緑体の分裂に関しては遺伝研の宮城島さんが世界のトップを走っている方だということは知っていました。 そんな時に遺伝研ポスドクの募集を見つけました。
宮城島さんの研究室でも募集していたので、これは応募しない手はないと思い、応募を決めました。
遺伝研での研究生活はいかがですか。
研究手法を大きく変えましたので、1 年目は慣れるのに精いっぱいだった節もあります。大学院では一つ一つの細胞を観察していましたが、遺伝子発現をみようと思うとある程度の細胞数が必要になり、しかも捕食の後の状態を揃えるのもなかなか難しいので、技術的にちょっと難航していました。
しかし、やりたいと思ったことは自由にやらせていただけて、宮城島さんとディスカッションすると的確な方向性が見えてきますし、ここに来て良かったと思える研究環境です。多彩な実験手法を吸収していく楽しさや、これまで触ったことがなかった機器でこんなことまで分析できるんだという素朴な感動も味わっています。ぶつかっていた問題にも、使えそうな方法が見つかったので、いま挑戦しているところです。
今後の抱負をお聞かせください。
まずは、盗葉緑体が大きくなって分裂するメカニズムがまったくわかっていないので、解明のきっかけをつかみたいと思います。「なんでこういうことが起こっているんだろう」という自分の素直な疑問を大切にしながら、研究に携わっていきたいと思っています。
同時に、自分の研究を進めることだけを追求するのではなく、自分の身についた技術を使ってもらうための努力もしたいと思っています。細胞内共生の研究を続けていくこと、そして、これから藻類を研究したいという人を教育者として支えていくことを目指したいです。
(2016 年 3 月 リサーチ・アドミニストレーター室 伊東真知子)