Genome-wide analysis successfully resolves population structure shaped by recent divergence in the endangered bagrid
catfish Pseudobagrus ichikawai
Keisuke Onuki, Ryoichi Tabata, Tappei Mishina, Mutsumi Nishida, and Katsutoshi Watanabe
Ecology and Evolution(2026)DOI:10.1002/ece3.73263
近年のゲノムシーケンシング技術の向上は,生物多様性の理解にも革命をもたらし続けています。身近な生物に対してゲノム分析を適用することで,その
自然史を解像度高く理解し,保全や利用に応用することが現実的になっています。
本研究では,伊勢湾・三河湾周辺にのみ生息する日本固有種の淡水魚で絶滅危惧種でもあるネコギギ(ナマズ目ギギ科)についてゲノム分析を行い,従来の遺伝分析では見いだせなかった本種の地域集団分化の歴史を明らかにしました。ネコギギは湾周辺の河川の中・上流部に分布し,生息地改変により絶滅の危機に瀕する地域集団を多く抱える種ですが,遺伝的多様性の低さのため,地域集団間の関係はほとんど分かっていませんでした。
分析の結果,現存するネコギギは,海水準が低下し湾全体が陸地となった最終氷期には単一の集団を形成しており,最終氷期半ばから後氷期の海水準上昇が生じた数千年前にかけて集団分化したことが分かりました。集団分化の過程で,地域集団はまず伊勢湾奥部と湾口部周辺に分化したと推定され,特に湾口部の集団にあたる現在の湾をまたいだ東西の集団が遺伝的に近い関係を示しました。こうした集団分化のパターンは,現在の湾部にかつて存在した,大きな古水系による河川の連結を強く反映していると考えられます。
本研究は,古水系が作り出したネコギギの地域集団の多様性をゲノム分析によって解明し,分布形成の歴史を踏まえた生物多様性の保全の重要性を提示するものです。
本研究は,国立遺伝学研究所の大貫渓介研究員(日本学術振興会特別研究員PD)と京都大学大学院理学研究科の渡辺勝敏教授を中心とする研究チームによって行われました。

ネコギギ(撮影:渡辺勝敏教授)と本研究で推定された本種の地域集団間の遺伝的関係。白線は現在の河川,青線は最終氷期の古水系と海岸線をそれぞれ表す。