講演①質問と回答 (有田 正規)
- 「データベースからガセリ菌の新たな仲間を見つけた」話について、その手法・手段等について教えて頂けないでしょうか?
- 乳酸菌の全ゲノム比較を実施したとき、ガセリ菌の遺伝子セットに大きく幅があることを見つけたのがきっかけです。学名を付与する際にはゲノム全体の類似度をみます(ANIなどと呼ばれます)。その作業過程でわかった、といってもよいでしょう。
- 新種のガセリ菌は機能や役割で従来のガセリ菌と違う点は何ですか?
- 新しいパラガセリのほうがプロバイオティクス効果を持つのではないかと考え、研究中です。
- 腸内細菌と人との間で遺伝子の交換のようなことは起きていますか?
- 腸内細菌からヒトに遺伝子は入りません。ヒトゲノムに組み込まれるには生殖細胞(精子か卵子)に入らないと駄目だからです。
- バイオインフォマティクス分野の研究と実証研究のマッチングを促進するような取り組みに新しい動きはあるのでしょうか?
- 特にマッチングを促すということはしていません。実験系の人にバイオインフォを教えることは多いです。
- オープンデータ時代は、研究者にとって嬉しいことでしょうか?それとも、大変なことでしょうか?
- データに自由アクセスできるのは基本的に良いことです。アクセスできないのは存在しないことと同じです。データはあればあるほど良く、その中から取捨選択・検索する技術を洗練させればよいでしょう。
- パブリックドメインでは完全にデータがオープン化されている天文学会ですが、そもそも天文学者は本質的に協調性が高いのではという意見に対して、生物学者の性格をどう考えられますか?
- 天文学者はデータを得る大型機器が限られるために協調しますが、生物学は対象が多様で測定も安価なので分散しています。
- eサイエンスの裾野のレベルは、どの程度と考えられていますか?
- eサイエンスの裾野は広く、一般の人も参加できます。バードウォッチングは生態調査になりますし、個人レベルで興味ある生物のゲノムを読める時代が来るからです。
- DNA上の塩基配列だけで種を分類できるのですか?
- データベースが充実していればほぼ可能です。
- MetaboBankについてもう少し詳しく教えていただきたいです。
- これから解説記事なども出していく予定です。
mb.ddbj.nig.ac.jp から公開したばかりです。まだまだサイトが不親切なのでもう少しお待ちください。
- これから解説記事なども出していく予定です。
- MetaboBankが全世界から情報を取得しきるにはどの程度の時間がかかりますか?他国には同様のデータベース機関は存在するのでしょうか?
- 欧州には MetaboLights というリポジトリ、米国には Metabolomics Workbench があります。MetaboBankはかなり後発です。情報は世界中の研究者が生産して寄託するので、終わりはありません。
- アッセイによって得られるデータには差があると思うのですが、オープンアクセス上にはどの程度詳細な情報を記載する義務がありますか?
- INSDCを含むデータベースに登録する際には、「メタデータ」として付随情報も登録します。その内容はデータベースに依存し、GISAIDは最小限です。INSDCはシーケンス情報生データも登録を推奨しています。
- INSDCの事業費の入手方法は?
- 米国、EU、日本の政府が支出しています。DDBJの年間予算は10億円ぐらいです。
- INSDCの利用者の登録認証記録や利用記録は取られていますか?
- 利用者は名前等を登録する必要がありません。利用記録等もとりません。
- INSDCにコロナウィルスの配列を登録した際、考えられうる問題は何でしょうか?
- 例えばデータ発生場所の詳細な記述等により風評被害を気にする人が出るかもしれません。
- データベースに登録されている配列に間違いらしきものに気づいた場合、修正を求めたり、懸念を追記できたりするのでしょうか?
- 可能です。データ登録者が明記されているので、その人に修正を促せば良いからです。修正は登録者にしか許されていません。
- データの信頼性は基本的に研究者依存になるのでしょうか?そこでのなんらかの倫理規定は存在するのでしょうか?
- 基本的に研究者依存です。データベース側の担当者とやり取りしながら登録するので、そこでスクリーニングされているとも考えられます。
- マイナーな動物種のデータ蓄積を活性化させるような取り組みは行われているのでしょうか?
- 特にありません。研究者が自発的に研究をするに任せています。
- 工業所有権との絡みはないのですか?
- 工業所有権とは特許や意匠登録等を指しますが、データの無償公開とは相反しません。特許や所有権を主張したい場合は、まずそちらを取ってもらうことになります。その後で公共データベースに登録すれば大丈夫です。
- 先程の話であったヒトゲノムの解析は現在どれほど進んでいるのでしょうか?
- 今は個人ゲノムを読む研究が全世界で精力的に進めらています。例えば日本でも、親子三代のゲノム・コホートというのを東北大学を中心に行っています。米国では200万人規模の個人ゲノムがデータベースに登録されています。そうした大量のデータから例えば癌のような疾患とゲノムの関係を探るという研究が盛んに行われています。
- オープンリソース上の誤ったデータを弾くような機構はあるのでしょうか?
- 残念ながらありません。INSDCの場合、登録される内容は基本的に受付ます。ただし、きちんと学名を書かせるため、例えばおばけとか雪男の配列みたいなものは登録されていません。
- ヒトゲノムの「個人情報」としての取り扱いについての動きはありますか?
- ヒトゲノムの場合は誰でも自由にダウンロードできるデータベースではなく、アクセス制限のあるデータベースに保存することになっています。研究者が利用目的を明らかにして審査を通らないと、ヒトの個人ゲノムにはアクセスできません。その点ではINSDCとは別のルールで管理されています。
- 日本はINSDCの新型コロナウィルスデータを利用できますか?
- INSDCは公開で誰でも利用できます。
- 日本の新型コロナウィルスデータは、GISAIDに加盟していないと使えないという事ですか?
- GISAIDは利用申請が必要で、許可されればGISAIDの中に登録されている配列を使えます。
- パブリックドメインのビッグデータで2次利用が許されると、研究者の仮説に都合のよいデータだけを抜き出してバイアスがかかった結果を導き出す危険性はありませんか?
- その危険性はあります。そうした結果は検証に耐えないので次第に排除されていきます。
- まだ高校生なのですが、遺伝の研究は医学部よりなのか、生命工学よりなのか、はたまた理学部よりなのでしょうか?
- 遺伝学の研究はどこでも実施可能です。ただ生命工学よりは理学部や医学部が近いでしょう。
- データマイニングの技能を身に着ける手法はどのようなものがありますか?
- 情報科学またはコンピュータ科学の視点が必要になります。教科書なども数多く出ています。
- 東北大が進めているような親子3代の遺伝の研究のようなプロジェクトをやっている他の大学の研究室はありますか?
- 国内のコホート研究を実施する研究室については「ゲノムコホート」や「疾患コホート」というキーワードで検索すると良いと思います。
- ジャンクDNAについて、将来研究をしたいと思っています。どちらの大学の研究室でそのような研究がされていますか?
- ジャンクDNAとはタンパク質をコードしない領域を指して使われた言葉です。殆どの大学はそうした領域を含めて研究をしています。
- 遺伝的改変 = ゲノム編集 ですか?
- 遺伝的改変の中にゲノム編集が含まれます。遺伝的改変の中には、ゲノム編集以外の手法(例えば遺伝子組換え)も含まれます。
- DIYバイオに期待する分野があれば教えて下さい。
- 生物学の裾野を広げてくれると期待しています。多くの人が参加すればするほど、学問は発展すると思います。また遺伝子組換え作物やゲノム編集に関する議論も深まるでしょう。
- 自宅でbioの研究が出来ると仰っていましたが、どちらの媒体が行っているものですか?
- DIYBIOについては、このサイトを参照してください。
https://diybio.org/
- DIYBIOについては、このサイトを参照してください。
講演②質問と回答 (宮城島 進也)
- 葉緑体の数や細胞内に占める体積の大きさは何を意味していますか?
- 正確にお答えするのは難しいのですが、1細胞あたりの葉緑体の総体積は、細胞内のその他の部分とのバランス(代謝のバランス)などで決まると思います。陸上植物は1細胞あたり数十の葉緑体を持ちます。このおかげで細胞内での葉緑体の分布を変えることができます。多くの単細胞藻類は自分自身で動いて適切な光強度の場所に移動できますが、陸上植物は動けないので、光強度に合わせて細胞内の葉緑体の分布を変える必要が生じたと思われます。
- 基本的なことで恐縮ですが、ミトコンドリアに関しても2次共生、3次共生をしているのでしょうか?
- ミトコンドリアの2次3次共生は知られていません。現存のすべての真核細胞のミトコンドリアは同一起源だと考えられています。
- ミトコンドリアは母系統で遺伝するということですが、取り込んだ細胞と協調して分裂するのに影響しないのでしょうか?
- 父親由来のミトコンドリアDNAは受精後分解されます。父親由来のミトコンドリアも分解されます。ミトコンドリアゲノムには分裂に関わる遺伝子は無いので、協調増殖には問題ないと思います。
- もし葉緑体のみに影響するように葉緑体分裂を阻害したとすれば、核の分裂も進行しなくなるのでしょうか?
- そのような実験をした結果、おっしゃるとおり宿主の細胞周期も止まることがわかりました。
- 2次共生以降の宿主細胞が分裂する時、葉緑体および取り込まれた側の真核細胞(入れ子になっている内側の細胞)の分裂は、どのように連動して行われるのでしょうか?
- 共生した真核細胞の細胞周期進行に関わる遺伝子群が、宿主に取り上げられていて、宿主がそれらの遺伝子群を決まった時期に働かせることで、宿主である真核細胞が真核の共生体の細胞周期進行を調整しているようです。
- 動物細胞に葉緑体を共生できますか?
- 恒久的に共生させるためには、葉緑体の様々な部品をコードする数百の遺伝子群、分裂のための遺伝子群を動物の核ゲノムに導入しておく必要があるのでかなり難しいと思います。一方で、一過的な共生の例は知られています(食べた藻類の葉緑体を体表の細胞内に維持するウミウシ等)。葉緑体では無く自律的な藻類細胞自体を共生させる例は多数知られています(サンゴ、一部のクラゲ等)。この場合共生藻類は生殖細胞には受け継がれないので、次世代は生まれたあと、外部から新たに共生藻を獲得する必要があります。
- ヒトの細胞と葉緑体の細胞を組み合わせることはできますか?
- ヒトと藻類・植物では、持っている遺伝子群が違うので増殖する細胞としては成立しません。
- 仮にできるとすれば、葉緑体をヒトの身体に埋め込んだ場合、ヒトの身体はどのように変化していきますか?
- 光合成は副産物として多量の活性酸素種を生じます。そのため藻類・植物はこれらを除去するシステムを高度に発達させています。それがないヒト細胞に葉緑体を入れて光を当てると、おそらく皮膚がん等の発生確率が上がってしまうと思います。
- 先程の温泉水に硫酸アンモニウムを入れるとシアノジウムが出てきましたが、そこに硝酸塩を入れるとどうなるのでしょうか?
- 硝酸も使える藻類であれば増えてくるはずです。硝酸の場合は、細胞内で硝酸をアンモニウムに還元する能力が高い藻類が特異的に増えてきます。アンモニウムの場合はほぼすべての藻類が増えてくることが期待できます。
- イタリアのシゾンは1倍体ですか?2倍体ですか?
- イタリアのシゾン(細胞壁がなくて2分裂で増殖する)は1倍体です。
- シゾンは細胞壁がないということですが、細胞内外の水圧を調整する必要があるので、何らかのポンプ機能があるということですね?
- まだ詳しくはわかっていないのですが、細胞壁がなくても浸透圧変動にはかなり幅広く対応できるので、細胞質内の基質濃度を変化させる等の機構があるのだと思います。
- 2倍体と1倍体で細胞壁の有無が変わるのはどうしてでしょうか?
- その原因としては、細胞壁合成関連の遺伝子群が1倍体でははたらかなくなるためのようです。その意義については、まだ正確なことはわからないのですが、細胞壁があると接合のじゃまになるというのが一つの仮説です。1倍体は物体の表面を這って動きますが、2倍体は動きません。これも1倍体に細胞壁がないことと関係あるかもしれません。
- 新種の1倍体は、生殖細胞の様な物というお話しでした。
- 動物では精子や卵子などに相当します。ただし、これらと違うのは、1倍体だけでも分裂して増殖できること、雄と雌の間でその形態に大きな違いがないことです(同系配偶)。
- 新種の1倍体は、葉緑体やミトコンドリアも分裂、生殖的な遺伝子変化が起きるのでしょうか?また、種子植物等と比べて大きな違いがあると思って良いのでしょうか?あるいは、生殖的な増殖を行う場合でも、葉緑体等の遺伝情報の分裂、再構成は起きるのでしょうか?
- まだ調べていませんが、他の真核生物と同様に、葉緑体とミトコンドリアのゲノムは片親遺伝することが予想されます。従って、有性生殖による遺伝的変化は起きないことが予想されます。
- 1倍体の藻類が、なぜ生まれたのだとお考えでしょうか?
- 1倍体と2倍体の相変換は真核生物の共通祖先にすでにあった機構と考えられています。生活環においてどちらが主となるかは系統によって異なります。相変換を伴う有性生殖は、集団内に遺伝的多様性を保持するという意義があると考えられています。
- 藻類で高温状況の遺伝子発現を確認されたとありました。細胞を突っつくだけで遺伝子発現もありえるのでしょうか?
- そのような例は知りませんが、物理的な刺激に応答する伸展活性化チャネルのような機構を改変して応用すれば、そのような系を作れるかもしれません。
- クラミドモナスではどのように外来遺伝子が不活化されるのでしょうか?
- いろいろな経路があると考えられており、その詳細は未だに不明ですが、DNAのメチル化により不活化される例がその1つとして知られています。外来遺伝子を不活化するのは自身を守るための防衛策の一つです。イデユコゴメ類や酵母では縮小進化によって、これらの能力が衰えたために、外来遺伝子が簡単に発現するのだろうと考えています。
- 増殖の際のリングが完成し次の段階に進めるということを宿主にどのような仕組みで伝達しているのですか?
- 大変重要な問題なのですが、まだわかっておりません。現在解析中です。
- 遺伝子導入について
(1)単細胞紅藻シゾンだけがなぜ遺伝的改編ができるのですか?
(2)有性生殖の新種は遺伝的改編ができるのですか?
(3)育種だけでなくCRISPR-Cas9のような遺伝子改変技術も使うのですか?- (1)シゾン(またはシアニジウムの1倍体)は細胞壁が無いのでDNAの細胞内への導入が容易です(ポリエチレングリコールという物質を用いて導入)。一方で細胞壁がある藻類の場合は、パーティクルガン(DNAをまぶした微小な金属の弾丸)を用いないとDNAを導入できません。イデユコゴメ類の特徴は、酵母のように導入したDNAが相同組み換えにより、ゲノムの狙った場所に挿入される頻度が高いため、ゲノムの狙った場所を編集できること、導入した遺伝子の不活化が起きないことです。外来DNAをゲノムに組み込むこと自体は他の真核藻類でも出来ますが、狙った場所を改変することが難しいこと、導入した遺伝子が不活化されることが問題となっています。
(2)開発しました。
(3)できますが、相同組み換え効率が良いので、CRISPRを使用する必要がありません。
- (1)シゾン(またはシアニジウムの1倍体)は細胞壁が無いのでDNAの細胞内への導入が容易です(ポリエチレングリコールという物質を用いて導入)。一方で細胞壁がある藻類の場合は、パーティクルガン(DNAをまぶした微小な金属の弾丸)を用いないとDNAを導入できません。イデユコゴメ類の特徴は、酵母のように導入したDNAが相同組み換えにより、ゲノムの狙った場所に挿入される頻度が高いため、ゲノムの狙った場所を編集できること、導入した遺伝子の不活化が起きないことです。外来DNAをゲノムに組み込むこと自体は他の真核藻類でも出来ますが、狙った場所を改変することが難しいこと、導入した遺伝子が不活化されることが問題となっています。
- 細胞分裂のタイミングは葉緑体のリング生成だけできまるのですか?
- 葉緑体のリングが収縮し始めないと、宿主の細胞周期も停止しますが、宿主細胞の分裂のタイミングはそれだけでは決まりません。
- 有性生殖の新種(イデユコゴメ)は1倍体での増殖と2倍体での有性増殖する時では栄養状態等生息環境の条件が違うのですか?
- まだよくわかっていません。実験環境では、1倍体も2倍体も同じ培養液で、それぞれ安定的に増殖します。自然環境では2倍体しか見つからないので、1倍体はおそらく普段とは違う環境下で短時間存在するのだと予想しています。現在環境調査をして調べています。
- 同型配偶とは機能的には区別できるのですか?
- イデユコゴメ類は同系配偶ですが、クラミドモナスなどの場合と同様にオスとメスは機能的に区別できると考えています。現在調査中です。
- イデユコゴメの性決定因子は分かっているのでしょうか?
- 分かりつつあります。詳細は未発表ですが、どこが性染色体領域なのかもわかっています。性は様々な系統で独立に進化したことが知られていますが、イデユコゴメの決定因子は他の真核生物群のいくつかでも用いられている遺伝子群のようです。
- イデユコゴメではなぜビタミン類が豊富なのですか?
- イデユコゴメ類では、熱ショック遺伝子群や、カタラーゼなどの活性酸素種を処理するタンパク質の遺伝子が恒常的に高発現しているので、至適環境においても恒常的に強いストレスにさらされていると考えられます。ビタミンC、ビタミンE、カロテノイドは、活性酸素種を消去する役割があります。おそらく、恒常的に受ける高い酸化ストレスに対処するために、これらの物質も多く含まれているのではないかと想像しています。
- イタリアの系統と日本の系統でどのくらいDNAに差があるのでしょうか?
- イデユコゴメ綱がその他の紅藻から分岐したのは10億年ほど前と推察されています。イタリアの系統と日本の系統は、ゲノム配列の違いに基づくと、少なくとも2億年は離れていると推定されます。
- 発見された微細藻類は、実際に機能性飼料などのための大量生産は可能なのでしょうか?培地のpHをかなりさげなければならないようにおもったのですが。
- イデユコゴメ類は、pHを6程度に下げれば、増殖します。あとは自分自身で周りのpHを下げていきます。酸性化に利用する工業用硫酸のコストはほとんど無視して良い程度なので、これから大量培養系の開発をすすめるところです。
- 宇宙空間での培養は検討されていますか?
- まだですが、他の微細藻類でできれば出来ると思います。光は恒常的に得られるので良いとして、問題になるのは、水、CO2とその他無機肥料の供給だと思います。
- イデユコゴメのクッキー、青汁、サプリなど作って欲しいと思います。(ちょっと食べてみたいです)
- ありがとうございます。
講演③質問と回答 (西村 瑠佳)
- 古代人の骨からDNAを採取して、それを調べることで古代ウイルスのDNAを調べているとのことでしたが、これは、古代縄文人のゲノムに組み込まれたウイルスDNAを探しているという認識でよろしいでしょうか?また、この場合、そのウイルスが組み込まれていない古代人のゲノム情報が必要になるような気がするのですが、それはどのように決定されたのでしょうか?
- 現在は縄文人の体内に生息していたと考えられる古代ウイルスのDNAを探しています。そのため、現時点では縄文人のゲノムに組み込まれた内在性ウイルスについては探索を行っていません。また、質問の意図とは少し変わってしまうかもしれませんが、古代ウイルスの同定法について簡単にお伝えしますと、現代に存在するウイルスと類似の配列が古代DNA中にあるかどうか調べる(相同性検索)によって同定を行っています。もし仮に内在性ウイルス配列についても調べるのであれば、上記と同様に内在性ウイルス配列と類似の配列があるかどうか調べることによって解析が可能になるかと考えられます。
- 今回用いた方法で検出できるのはDNA・RNAウイルス両方ですか?
- 現在は古代DNA由来のデータのみを扱っているので、基本的にはDNAウイルスのみが検出できます。(解析手法を工夫するとDNAのデータからRNAウイルスも検出できるかもしれませんが、まだ行っていません。)
- 縄文時代に着目されたのには何かきっかけがありましたか?
- 縄文時代は今から約2,900年から16,000年前を指しますが、数千年前の古代微生物と現代の微生物を比べたら何か面白い知見が得られるのではないかと思ったのがきっかけです。
- 遺伝研に入る際には、英語は「リスニング」、「スピーキング」などある程度出来ていることが前提でしょうか?
- 英語の試験のスコアなどの制限はありません。入学時に英語ができなかったとしても、授業やセミナーが英語で開催されるだけでなく留学生との交流も多いので、日々の生活の中で徐々に慣れていくことができます。また、遺伝研では英語でのプレゼンの仕方を学ぶことのできる授業もあるので、入学後にも英語力を向上させられるチャンスがあります。
- 現在データを元に研究されているとのことでしたが、実際の生物から離れてしまうことに寂しさを感じたりされるでしょうか?
- 確かに実験が好きだったので、多少の寂しさは感じます。(料理が実験とちょっと似ているので、自炊することで気分を紛らわせることも…笑)とはいえ解析は解析でまた違った面白さがあるので、今はそれで満足しています。
- ゲノムのなかにもウイルスがいるんですよね?
- その通りです。ヒトのゲノムの8%ほどは大昔にヒトの祖先に感染し、ゲノムに入り込んだウイルス由来の配列(内在性レトロウイルス配列)から成っています。
- 留学生の国籍の構成はどうなっているのですか?
- 2020年現在、5割の方が留学生です。
- 遺伝研内で他のラボとどのくらい交流があるのでしょうか?
- 似た分野のラボ同士であれば論文の輪読会などを一緒に定期的に行います。また、それに加えて気になる研究をされている先生に自ら話を聞きにいくなどすれば交流の輪は広がるように思います。
- こんにちは!素敵な講義をありがとうございます!とても楽しく受けることが出来ました!質問です。現在高校2年生です。西村さんは研究者になりたいとおっしゃっていましたが研究者という職業に少なからず不安があります。思うように結果が出ないことがほとんどなのでしょうが結果が出ないまま研究者を続ける忍耐や関心があるかと言われると返答に困ってしまいます。例えば大学院に進んで研究を続けた後、自分が研究していた分野を活かせる企業などに就職できるのか、そうすると研究する分野というのは将来の自分の人生を大きく分けるものではないか、そう思えてきます。今回の講義を通して研究は楽しそうと思えてきましたがやはりそのような不安はあります。西村さんにそのような不安はありましたか?もしあったならそれら不安についてどう考えていますか?
- 発表を楽しんでいただきありがとうございます!高校生の方から熱意溢れるコメント・質問をいただけて非常に嬉しいです。ご質問の「研究に不安はあるのか?」ということですが、答えはYesです。発表では楽しい面を前面に押ましたが、やはり研究というものは競争が激しく常に上手くいくものでもないので、将来に対しては現在進行形で不安を抱いています。しかしその一方で、ある程度楽観的に構えて目の前の研究を楽しむことが良いのかなと感じるようになってきました。これが正解なのかはわかりませんが、ピンチに立たされたとしても、研究の中で培った広い視野を持つことできっと何か道は見えてくるのだろうと思っています。特にご質問者さんのように高校の頃から大学院進学・研究者への道を真剣に考えられているのであれば尚のことです。確かに、選択する研究分野によって将来は少なからず左右されるかもしれませんが、私のように途中で分野を変える人はたくさんいますし、一度の決断で全て将来が決まってしまうということは無いように思います。取り留めのない回答になってしまいましたが、今のうちから「これだ!」と進路や分野を絞ってしまうのではなく、高校や大学生活の中で様々なことに挑戦して見聞を広げることできっと将来の進路選択に役に立つ日がくると思います。(高校時代進路についてしっかり考えていなかった私がアドバイスするのはおこがましいのですが…。)ぜひその情熱を持って今後も頑張ってください!
- iGEMで出会った有用な大腸菌の中で特に印象に残っているのはどのようなものですか?
- 細かい話をすると欄が足りなくなりますので、わかりやすい例をざっくり言えば「燃料を作り出すもの」、「動植物の病気を引き起こす微生物を駆除する物質を作るもの」などでしょうか。(プレゼンでは一言で有用な大腸菌を作ると言いましたが、実際には分子レベルで機能を改変して分子の発現調節をうまく行ったり、効率化したりと複雑なことをさせています。)iGEMの活動から立ち上げられたベンチャー企業が、日本の製薬会社に買収された例もあるほど、レベルの高いチームのプロジェクトは本当に素晴らしいです。もしご興味があればこちらから昨年賞を取ったチームがどのようなことをしていたのか見られます。
https://2019.igem.org/Competition/Results
- 細かい話をすると欄が足りなくなりますので、わかりやすい例をざっくり言えば「燃料を作り出すもの」、「動植物の病気を引き起こす微生物を駆除する物質を作るもの」などでしょうか。(プレゼンでは一言で有用な大腸菌を作ると言いましたが、実際には分子レベルで機能を改変して分子の発現調節をうまく行ったり、効率化したりと複雑なことをさせています。)iGEMの活動から立ち上げられたベンチャー企業が、日本の製薬会社に買収された例もあるほど、レベルの高いチームのプロジェクトは本当に素晴らしいです。もしご興味があればこちらから昨年賞を取ったチームがどのようなことをしていたのか見られます。