色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション
 
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第2回 色覚が変化すると、どのように色が見えるのか?

2.1 ヒトの色覚と先天色盲について

まず簡単にヒトの色覚と色盲について復習しておく。詳細は第1回の「色覚の原理と色盲のメカニズム」を読んでいただきたい。

図1. 視覚系の構造
眼球に入る光は,角膜,水晶体,硝子体を通り網膜で捉えられる.網膜は,視細胞〔杆体(R)および錐体(C)〕,双極細胞(B),水平細胞(H),アマクリン細胞(A),神経節細胞(G)の5種類の細胞から成る膜状の神経組織である(視細胞は光の入射方向から一番遠い側にある).神経節細胞の軸索束は視神経となり外側膝状体へ投射する.外側膝状体からは次の神経細胞が視覚情報を後頭葉の視覚野へ伝える.

光は、眼球の角膜、水晶体、硝子体といった中間透光体を通って、視細胞、双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞、神経節細胞の 5種類の神経細胞から成る膜状の神経組織である網膜に到達する(図1)。光刺激を神経の活動電位に変換する視細胞のうち、全体の95%を占める杆体は暗所のみで機能し、明所では機能しない。一方残りの 5%を占める錐体は、暗所では機能せず、明所のみで機能する。杆体が 1種類しかないのに対し、錐体には分光吸収特性の異なる L錐体、M錐体、S錐体の 3種類が存在する (以下赤錐体、緑錐体、青錐体と表記する:図2A)。暗所では光を感受する視細胞が杆体 1種類だけであるため、光の強度は認識できるものの、どのような波長成分の光であるかを認識することができない。そのため我々は暗いところではモノクロームな 1色型色覚となり、色を認識することができない*2。一方明所では、眼に入った光は 3種類の錐体によって波長別に 3つの成分に分解される。3変数に置換された光の波長別強度情報は、網膜内のその他の神経細胞によって情報処理が行われた後、視神経を走る神経節細胞の軸索によって眼球から脳の外側膝状体に伝えられ、そこで神経細胞を乗り換えてさらに後頭葉の視覚野に伝えられ、初めて色として知覚される(図1)。こうして、明所において我々の色覚は 3色型色覚となる。

遺伝子の変異によって各錐体の機能が変化すると、色覚は特徴的な先天的影響を受ける。これには、赤、緑、青のいずれかの視物質タンパク質 (オプシン) の遺伝子が発現しなくなった場合に起きる 2色型色覚 (強度の色盲もしくは「いわゆる色盲」) や、オプシン遺伝子の変異によって視物質の分光吸収特性が大きく変化して、同じ光に対する錐体の活動度が大きく変化した場合に起きる異常3色型色覚 (軽度の色盲、「いわゆる色弱」) がある。図2A で示すように緑錐体と赤錐体の分光吸収特性はよく似ており、どちらの機能に影響が出ても同じような表現型となるため、赤緑色盲と総称されている。赤オプシン遺伝子に変異が生じたものを第1色盲、緑オプシン遺伝子に変異が生じたものを第2色盲と呼ぶ。どちらの遺伝子もX 染色体に存在するため赤緑色盲は男性で頻度が高く、日本人の多くを占める黄色人種では男性の約5%、白人男性では約 8%、黒人男性では約 4%がこれに相当する (日本人男性に約300万人)。また日本人女性でも 0.2%(約 12万人)が赤緑色盲であり、その保因者は女性 10人に 1人の割合で存在する。白人では女性の 0.5%が赤緑色盲である。常染色体に存在する青オプシン遺伝子の変異は第3色盲もしくは青黄色盲と呼ばれ、数万人に 1人ときわめて少ない。

図2. 青,緑,赤錐体の受光スペクトルと異なった波長の色の弁別
A:3色型色覚の3つの錐体.緑錐体と赤錐体の受光スペクトルは大きく重複している.可視光線領域の短波長側の限界と長波長側の限界を規定しているのは,それぞれ青錐体と赤錐体である.青錐体の感度は540nm程度で急速に減少するが,640nm付近まで感度を保っている.ある波長の光が眼に入射したとき,3 種の錐体はその波長での分光感度に応じて反応する(赤,緑,青の短い横線).3 種の反応度が違えば,光は違う色として弁別される.
B:2色型色覚の例.緑錐体を欠いた眼でも,赤錐体と青錐体の反応度の差を利用して,かなりの波長の光を見分けられる.しかし反応度の比が同じようになってしまう波長は,同じような色として混同される.

*2 暗くても,星や電灯などの明るい部分に対しては錐体が機能して色を認識できる.ただし明所での色の見え方と暗順応した状態での色の見え方は,若干異なる.

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細胞工学Vol.21 No.8 2002年8月号[色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション]
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