哺乳類の概日時計において新たな知見
〜従来分子モデルの疑問を補うメカニズムを発見〜

The role of cell-autonomous circadian oscillation of Cry transcription in circadian rhythm generation

Ritsuko Matsumura, Kazuto Yoshimi, Yuka Sawai, Nanami Yasumune, Kohhei Kajihara, Tatsuya Maejima, Tsuyoshi Koide, Koichi Node, Makoto Akashi

Cell Reports (2022) 39, 110703 DOI:10.1016/j.celrep.2022.110703

地球の自転により、照度や気温など様々な自然環境因子は24時間の周期性を示します。そのため、この周期性に適応できる生物は生存競争において有利だと考えられます。実際、ほとんどの生物は約24時間周期の体内時計である「概日時計」を獲得しています。

哺乳類においては、負のフィードバック機構によって生み出される「CryptochromeCry)とPeriodPer)の両遺伝子における細胞自律的な転写の概日リズム」が、概日時計の振動中枢メカニズムだと考えられてきました。しかしながら、両遺伝子が概日時計の機能発現に不可欠であることは遺伝子ノックアウトの研究により明確でしたが、これらの「細胞自律的な転写リズム」が本当に概日時計の機能発現に必要か否かは不明なままでした。

山口大学時間学研究所の松村律子助教と明石真教授を中心とする研究グループは、国立遺伝学研究所と佐賀大学医学部との共同研究として、Cry遺伝子の細胞自律的な転写の概日リズムに不可欠なゲノム領域を特定して、これを破壊することにより同リズムが概日時計の機能発現に不可欠か否かを検証しました。その結果、Cry遺伝子の細胞自律的な転写リズムが無くても、個体や組織の概日リズムの周期が長くなるものの、概日時計は堅牢に機能していることが確認されました。

興味深いことに、細胞自律的なレベル(分散培養下の細胞)では、Cry遺伝子の転写リズムの停止によってPer遺伝子の転写リズムも停止しているにもかかわらず、Perタンパク質において量的な概日リズムが保たれていることがわかりました。そして、この転写に依存しないPerタンパク質量の概日リズムは、Perタンパク質分解による半減期制御を介した細胞自律的な概日リズムによって生じていることを発見しました。

以上のことから、本研究成果によって、CryPerの両遺伝子における細胞自律的な転写リズムは概日時計の機能発現において不可欠ではなく、これらの転写リズムの消失に対してPerタンパク質量の細胞自律的な概日リズムが補償的に作用することで概日時計の機能が維持されることが明らかになりました。

この成果は、2022年4月19日にCell Reports誌(Cell Press)に掲載されました。

国立遺伝学研究所は本研究に用いたゲノム編集マウスを作製することで研究に貢献しました。

Figure1

図:Cry E-box変異型とは、Cry遺伝子の転写開始点上流に位置する転写調節シスエレメントであるE-boxがゲノム編集によって破壊された細胞やマウスのことを意味します。このE-boxが破壊されると、Cry遺伝子のみならずPer遺伝子の発現においても細胞自律的な概日リズムが失われます。しかし、Perタンパク質の半減期制御において概日リズムは維持されており、結果として、Perタンパク質の存在量においても概日リズムが維持されることから、行動生理機能に関連する遺伝子群における発現の概日リズムも少なくとも部分的には維持されます。その結果、CryPer遺伝子の細胞自律的な転写リズムが失われていても、周期は長くなりますが、細胞から個体のレベルに至るまで概日リズムは維持されます。


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