2016/02/19

大腸菌のすべての転写因子の制御標的を同定

系統情報研究室・山﨑研究室

Transcription profile of Escherichia coli: genomic SELEX search for regulatory targets of transcription factors

Akira Ishihama, Tomohiro Shimada, and Yukiko Yamazaki

Nucleic Acids Research (2016) DOI:10.1093/nar/gkw051

ゲノムにある遺伝子のどれが転写されるかは、転写装置によって決定されます。転写装置のターゲットの選択は、転写酵素RNAポリメラーゼと転写因子との相互作用で制御されています。これまで、遺伝子個別の転写制御に関しては、細菌からヒトにいたるまで盛んに研究がおこなわれ、関与する転写因子とその作用機序が同定されてきました。しかし、ゲノムの全ての遺伝子を対象にした転写制御の全体像の解明には程遠く、新たな研究戦略が求められていました。

大腸菌は、遺伝子が約4,500しかなく、個々の遺伝子の機能が最も解析されているモデル生物です。大腸菌ゲノムの転写制御では、7種のプロモーター認識シグマ因子と300種の転写因子との2段階の相互作用によって標的遺伝子が決まります。本研究は、新規に開発したGenomic SELEX法を用いて、全てのシグマ因子と全ての転写因子の認識配列を決定し、その情報から全ての転写装置が支配する標的遺伝子群を明らかにしました。その成果の中から、今回、約半分の転写因子の解析データを分析し、論文として公表すると同時に、当研究所の新たなデータベース (TEC: Transcription Profile of Escherichia coli) として公開しました。

これまでにも大腸菌で働く転写装置と下流標的遺伝子は、様々な研究グループが明らからにしようとしてきましたが、実験に用いる大腸菌標準株でさえも変異の蓄積という点で遺伝的背景が異なることが判明しており、異なる研究室からの論文データの寄せ集めでは、ゲノム全体像の正しい理解は得られませんでした。一方、本研究は、遺伝的背景が等しい同一菌株を利用し、ひとつの研究室で実施された研究成果であることが特徴です。本研究は、ひとつの生物で働く全転写因子の制御機能解明の先駆けとなることが期待されます。

本研究は、当研究所の石浜明名誉教授の研究室(法政大学)と島田友裕博士(東工大)山崎由紀子研究室(遺伝研)との共同研究です。

TEC: https://shigen.nig.ac.jp/ecoli/tec/top/

Figure1

TECデータベースの機能:(A)転写因子(TF)の標的遺伝子候補の検索(B)全ゲノム上のTF結合位置を表示(C)2つ以上のTFの結合領域や強度の比較(D)TFの結合強度のヒートマップ表示(E)TF結合部位のコンセンサス配列を解析


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