第5版 編集後記

第5版に寄せて(2003年3月)

第4版を公開した2002年7月以後、遺伝学電子博物館へのアクセス数が順調に伸びてきました。また、主として教育関係のサイトや出版社からリンクのご希望や掲載のご希望も多数お寄せいただきました。遺伝情報の「複製、転写、翻訳」3部作のように編集担当が楽しみながら作り上げたページが皆さんにも楽しんでいただけることは、私たちにとって、何よりの幸せです。
さて、昨年末に編集担当の製作意欲を掻き立てる出来事がありました。ノーベル賞です。日本人としては、日本人研究者お二人の同時受賞とともに、日本人研究者の2年連続のノーベル化学賞受賞でした。また、国立遺伝学研究所に籍を置くものとしては、線虫の研究がノーベル医学生理学賞を獲得したことでした。
国立遺伝学研究所では線虫を材料とする国際水準の研究が行われていることから、遺伝学電子博物館にノーベル医学生理学賞を題材にした内容を盛り込まないでどうする、という意気込みで取り組みました。また、ノーベル化学賞も実は当所で行われている研究とその将来に密接な関係があることから、盛り込むことにしました。
今回は、ゲノムアニメ劇場で活躍中のゲノムシ、ゲノコ、ゲノピコに豪華なゲストも加って、ノーベル医学生理学賞とノーベル化学賞について「なるほど、そういうことだったのか」と目から鱗も落ちるようなアニメが出来上がりました。どうぞ、お楽しみください。

編集者(HS)
国立遺伝学研究所遺伝学博物館委員会(平成14年度)
委員長:菅原秀明
委員:荒木弘之、斎藤成也、小出 剛、佐々木裕之、城石俊彦、西川 建、藤田信之

電子博物館 第5版 2003年3月1日

第4版 編集後記

第4版に寄せて(2002年7月)

昨年の「リボソーム」に引き続き、今回は当遺伝学電子博物館のマルチメディア資料館の中に「DNAの複製」を動画として公開することができました。これで一昨年の「RNAポリメラーゼ」と合せて、遺伝情報の「複製、転写、翻訳」という3部作がめでたく揃ったことになります。
今回の「DNAの複製」では複製フォークの進行にともなうDNAの大きな動きが表現されています。とくに動画で見ると、二重らせんをなすDNA二本鎖のうち、複製フォークの進行方向と合成(複製)の方向が一致するリーディング鎖は問題ないとして、もう一方のラギング鎖の複製はいかにも大変であることがよく判ります。
ラギング鎖の複製のところで登場する「岡崎フラグメント」は、わが国の分子生物学が誇る大きな科学的成果の一つとして有名です。ラギング鎖における合成方向の矛盾を解決するために、こま切れに断片化した鎖(フラグメント)をつなげるという話は合理的に思えて納得できます。しかし、これを具体的な分子の動きに即して考えるとそれほど単純ではありません。現に、すこし前の教科書(Genes第6版)を見ると、DNAの二本鎖を合成する2つのDNAポリメラーゼが、岡崎フラグメントの合成サイクルに合せて合体したり(ダイマー)、離れたり(モノマー)するような図解が堂々と載っていました。その絵を見たとき編集子などは「いかにも不自然だな」と感じましたが、案の定、その後の新しい教科書では(今回の動画と同じように)2つのDNAポリメラーゼは常にダイマーのまま働くという図に改訂されていました。
しかし、それだけで話は済みません。DNAポリメラーゼをダイマーに固定すると、どこか他の部分にそのしわ寄せが及ぶことになるからです。そのしわ寄せは今回の動画でいうと、岡崎フラグメントの合成が進むにつれて中央部に成長してくるDNAの大きな「輪」にあたります。逆に、以前の教科書のようなDNAポリメラーゼはダイマー/モノマーの変換を繰り返すというモデルを仮定すれば、中央の輪は消えて全体的なDNAの鎖の流れはもっとスムーズになるはずです。どちらのモデルが「もっともらしい」と感じるかで、その人のセンス(生物の理解度?)が測れるような気がします。
このように、DNA複製の動作過程は教科書の記述でさえガラッと変るくらい捉えにくい問題です。今回も動画製作は(株)メタコーポレーションにお願いしましたが、単に絵を描いてもらえば終りというわけではなく、同社の女性担当者には専門書を読んであーでもない、こうでもない、と試行錯誤を重ねるという苦労を掛けてしまいました。また、製作途中の要所要所では当研究所のDNA 複製研究の専門家にお願いして、内容を厳しくチェックをして貰いました。したがって、今回の動画は分子生物学の最新の知見を踏まえたものとご理解していただきたく、当電子博物館としては自信をもって公開できる作品です。

編集者(KN)
国立遺伝学研究所遺伝学博物館委員会(平成14年度)
委員長:菅原秀明
委員:荒木弘之、斎藤成也、小出 剛、佐々木裕之、城石俊彦、西川 建、藤田信之

電子博物館 第4版 2002年7月1日

第3版 編集後記

第3版に寄せて(2001年10月)

昨年の遺伝学電子博物館第2版から登場した「マルチメディア資料館」の流れを受けて、今回はその中に新しく「リボソームの3D動画」を加えることができました。これで、昨年の「RNAポリメラーゼ」と合せて、遺伝情報の「転写」と「翻訳」過程のアニメーションが揃ったことになります。
リボソーム全体の丸ごとの結晶化は20年ばかり前から試みられてきましたが、純度の高い結晶をつくるのは難しく、リボソームの構造研究はもっぱら電子顕微鏡による直接観察が主流でした。電子顕微鏡による解像度もだんだんと向上し、何年か前にはリボソームには合成したタンパク質を外に出すための穴があいているらしい、というニュースが流れましたが、正直のところ私などは半信半疑でした。その後、ある研究チームが純度の高い「丸ごとの結晶化」に成功するやいなや、数年のうちにX線結晶構造解析法による高分解能像が次々と発表されるようになりました。それを見ると、確かに50Sサブユニットの中央を貫いて長い長いトンネルがあるのを知り、感激しました。自然が造ったこのような「合目的的構造」を多くの人に見ていただきたいというのが、今回の企画のモチベーションです。
構造解析でわかるのは静止像だけですが、その静止データを基にして3D動画にまで仕上げることができたのは、今回も動画製作をお願いしたメタコーポレーション(株)の高度の技術と熱意のおかげです。
とくに、リボソームの翻訳過程では翻訳の1段階ごとに30Sと50Sサブユニットが相互にずれることで、メッセンジャーRNAがコドン単位で読み取られ、タンパク質合成のワンステップが進むという「動き」が表現されています。この両サブユニット間の動きは、最近の教科書(Essential Cell Biology, 1998年)にしか書かかれてない事実で、以前の教科書(例えば1994年発行の、“The Cell”第3版)にはありません。静止したリボソームの上をmRNAとtRNAが次々と動くだけで翻訳が進行するなら、リボソームは2つのサブユニットに分かれる必要はありません。逆に、相対運動するためにリボソームは2つの部分から成っていると理解することができます。ここにも分子機械としてのリボソームの合目的性が感じられます。
今回の第3版では、そのほかに「クイズ遺伝学とアニメ」コーナーの中の「ゲノムアニメ劇場」も一層内容が充実されましたので、ぜひご覧いただきたいと思います。この部分はもともと遺伝研の「春の一般公開日」の展示として、系統情報研究室で自主製作されてきたアニメですが、年に一度の展示だけではもったいない出来ばえなので、当電子博物館に提供して頂いたという経緯があります。
最後に、当電子博物館を来訪された皆様のご意見を伺うために、新たに「投書箱」を設けました。アンケートも用意します。皆様方の率直なご意見やご感想をふるってお寄せ下さいますようお願い申しあげます。

編集者(KN)
国立遺伝学研究所遺伝学博物館委員会(平成13度)
委員長:菅原秀明
委員:荒木弘之、石浜 明、小出 剛、佐々木裕之、西川 建、藤田信之、山崎由紀子

電子博物館 第3版 2001年10月1日

第2版 編集後記

第2版に寄せて(2000年6月)

暗中模索の中から生まれた遺伝学電子博物館でしたが、所外のいろいろな分野の方からご支援を受けて無事一周年を迎えることができました。沢山リンクもしていただきました。問題点を指摘して下さった方、閲覧して下さった方、クイズを楽しんでくださった皆さんに心からお礼申し上げます。
所内から「もっと充実させたい」、「映像はやはりインパクトが大きい」、「ホットな話題を提供したい」という声が高まって電博第2版の編集がはじまりました。第2版では「マルチメデイア資料館」を増設し、コンテンツ第1号として、RNAポリメラーゼの立体構造と転写反応を3Dで表現することにしました。RNAポリメラーゼは遺伝学の中でも大変重要な役割を果たしている酵素タンパク質ですが、この結晶構造が解析されたのはつい最近のことです。ちょっと難しい内容に思われるかもしれませんが、「百聞は一見にしかず」です。とにかく覗いてみてください。DNAの2重螺旋が巨大なタンパク質の中で解け、一本鎖DNAを鋳型にしてmRNAが出来上がっていく様子がおわかりになるでしょう。編集委員には、RNAポリメラーゼの専門家と蛋白質の立体構造の専門家が加わりました。3D表現の技術的な部分は、独自の高い技術をもつメタコーポレーションの皆様に頑張っていただきました。
RNAポリメラーゼの立体構造と転写過程のアニメーションは、おそらく世界でも初めての試みであろうと思われます。まだまだ解き明かされなければならない問題が沢山残っているにもかかわらず、あたかも全部を見てきたように表現することの難しさにも直面しました。また3Dで表現することによって初めて新たな疑問がわいてくることもわかりました。
でも本当は誰よりも編集委員がこの作業を楽しんだのかもしれません。是非多くの皆さんに感動をお分けしたいと思います。
最後に編集委員からお願いがあります。
ホームページの拡充にあたり「マルチメディア資料館」とともに、実物の遺伝学博物館を作るための「準備室」も設けました。手始めに、遺伝学博物館に集積しようとしている資料のリストを掲載し始めました。集積したらよいと思われる資料や遺伝学博物館に御提供いただける資料が ございましたら、e-museum@nig.ac.jp宛にお知らせ下さい。

第2版編集委員:菅原秀明、西川建、藤田信之、山崎由紀子

菅原秀明
(遺伝学博物館委員会委員長)
情報の立場から生物を見ている者にとっての夢は、コンピュータの中で「生物丸ごと一匹飼う」ことです。転写反応の3D動画モデルを作る過程をみていると、細胞の中の極微の現象でもこれだけ精緻なのですから、夢の実現は私の世代では無理だろうな~、と感じました。次の世代に期待することにしましょう。
西川 建
(構造解析)
鎖状分子の「一筆書き構造」で、あんな複雑な仕事をする分子機械ができ上がるとは、生命の驚異というよりも「出来すぎ」じゃないか、という気がします。
藤田信之
(RNAポリメラーゼ)
RNAポリメラーゼの結晶構造がわかっても、転写の過程にはまだまだわからないことがたくさんあります。今回作っていただいたアニメーションもかなりの部分は「想像の産物」と言ってよいでしょう。想像と現実のギャップを埋めていくのがこれからの私たちの仕事です。10年経ってこのアニメーションを見たときに、よくこれだけのものを作ったと感心するか、はたまたとんでもないものを作ってしまったと反省するか...;
山崎由紀子
(第1版の生き残り)
情熱を内に秘めたクールな面々が、それぞれの得意分野で協力し合い、編集作業は第1版に比べてかなりスマートに行われました。
Science Artとも言えるすばらしい映像表現にうっとりしてます。

電子博物館 第2版 2000年6月1日

第1版 編集後記

第1版に寄せて(1999年6月)

50周年を記念して遺伝学博物館を造ろうという話が出たとき、広く一般の方々へ情報を発信できるインターネット上の博物館を最初に造りましょうということで、1998年10月に準備が始まりました。
既に公開されている他のインターネット上の博物館のように、もととなる“物”としての博物館があったわけではありません。当研究所における最先端の遺伝学研究や遺伝情報データベースの構築を通して得られた成果を、過去の知的財産と合わせ、どのようにしたらわかりやすく皆様に提供できるだろうか、暗中模索の中で始まりました。
私たち編集委員3人、夜道を手探りで行くような苦悶の日々でしたが、お役に立つ楽しい博物館を何とか作りたいという一心でやって参りました。創立50周年の今日に遺伝学電子博物館の産声を上げることができましたのもひとえに、所内外の皆様の御協力と、何よりもホームページ作りをお願いしたダイナコムの皆様の高い技術力に裏付けられた誠心誠意のお仕事のお陰と、心より感謝いたします。
遺伝学専門の電子博物館は、おそらく世界でも初めてのものです。今回公開します第1版は、まだまだ不備な点も多々ありますが、今後は我々産みの親のもとを離れ皆様に育てていただいて、例えば世界中の学校でみんなが遺伝学を楽しめるような、人類共通の財産としての博物館に育ってくれることを願っています。

第1版編集委員
徳永万喜洋 、倉田のり、山崎由紀子

倉田 のり 実質的な作業開始は2月以降で、相当tight scheduleでした。何とか形にできて、何はともあれほっとしてます。
徳永万喜洋 クイズ楽しんでください。
山崎由紀子 たくさんの「ふしぎ」を発見してください!

電子博物館 第1版 1999年6月1日

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