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マウス 〜 マウスのエピジェネティクス

エピジェネティクスってなに?

 遺伝子の機能がDNA配列の置換や欠失などの突然変異によって損なわれると、その影響は細胞分裂を通して、あるいは世代を越えて受け継がれます。このような遺伝的変化に対し、DNAの変化を伴わずに遺伝子の機能を変化させ、かつ伝達する仕組みを、エピジェネティクスといいます。DNAのメチル化やヒストン蛋白質のさまざまな化学修飾がその仕組みの基盤となっています。これらエピジェネティックな修飾が協調的に作用することによって、遺伝子の発現が制御されるのです。エピジェネティックな制御はゲノムの遺伝情報を場面に応じて適切に引き出すために重要な役割を果たし、それによって組織の多様性や表現型の多様性が生まれるとも言えます。また、次に述べるようなエピジェネティックな現象が、マウスを使って研究されています。

X染色体不の活性化・・・三毛猫の模様

 哺乳類のオスはXY、メスはXXの性染色体構成をもつので、メスではX染色体の遺伝子がオスの2倍あります。Y染色体は性決定(オス化)や精子形成にかかわる遺伝子が50個程度あるだけの小さな染色体で、その有無が動物の生存に影響することはありません。しかし、X染色体には生存に必須なものを含め1500個もの遺伝子があるので、雌雄間で遺伝子量の差を是正する必要があります。そのための機構がX染色体不活性化です。つまり、哺乳類のメスは2本あるX染色体の1本を不活性化し、働きのあるX染色体の数がオスと同じ1本になるようにするのです(図1)。その際、不活性化されるX染色体は2本のX染色体からランダムに選ばれることが分かっています(例外もあります)。

図1 不活性X染色体

 メスのマウスの細胞の染色体を不活性な部分が暗く見える方法で染色してあります。2本のX染色体のうち暗い方が不活性なX染色体です。

図1 不活性X染色体

 身近な例では、三毛猫(すべてメス)の茶と黒を決める遺伝子がX染色体にあり、不活性化の起こり方で模様が決まることが知られています。

 

 X染色体不活性化は発生の初期に起こり、メスのほとんど全ての細胞で観察されます。しかし、卵子形成過程では不活性化なX染色体が活性を取り戻し、その後の減数分裂を経て次世代へ伝えられます(図2)。X染色体は、DNA配列の変化をともなわないエピジェネティックな仕組みで制御されているため、不活性化と再活性化のサイクルを繰り返すことができるのです。

図2 哺乳類のX染色体の不活性化と再活性化

 赤・青のXはそれぞれ母由来・父由来のX染色体を示し、大文字・小文字のXはそれぞれ活性・不活性のX染色体を示しています。  

 

図2 哺乳類のX染色体の不活性化と再活性化

 

ゲノムインプリンティングと単為発生マウス「かぐや」

 二倍体の生物ではふつう一対(父由来・母由来)の遺伝子の機能は等価です。しかし、哺乳類の特定の遺伝子座では、その遺伝子が働くか働かないかはどちらの親に由来するかで異なり、例えば母由来の遺伝子は発現するが父由来の遺伝子は発現しない、というようなことが見られます。このように、父由来・母由来の遺伝子の間に質的な違いを形成する機構がゲノムインプリンティング(ゲノム刷り込み)です。
  ゲノムインプリンティングによって制御される遺伝子には、卵子と精子が作られるときに特有なエピジェネティックな印がつけられます(図3)。この印の役割を果たすのがDNAメチル化です。印は世代毎に母由来タイプもしくは父由来タイプに書き換えられるので、インプリンティングは哺乳類におけるエピジェネティック制御の代表例といえます。

 

図3 ゲノムインプリンティングのサイクル

赤・青の棒はそれぞれ母由来・父由来の印のついたゲノムを表わします。インプリンティングは世代毎に書き換えられます。

 

図3 ゲノムインプリンティングのサイクル

 

 哺乳類で単為発生(未受精卵から個体ができること)が観察されないのは、インプリンティングのため母由来ゲノムが父由来ゲノムの代わりをできないからです。2004年に東京農業大学の河野友宏らにより単為発生マウス「かぐや」が発表されましたが、これはインプリンティングを人工的に改変することにより初めて可能になったのです。
 

 

(文責:佐渡敬、佐々木裕之)