遺伝学とは

     
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マウス 〜 フォワードジェネティクス(順遺伝学)

表現型からすべてがはじまる

 フォワードジェネティクス(順遺伝学)は、遺伝性がみられる形質(表現型)からその原因となる遺伝子を探り当てる研究を指します。これは本来の遺伝学の手法でもあります。"phenotype-driven"アプローチと呼ばれることもあり、野生型とは異なる表現型を示すマウスを見出すことが出発点となります。新たな表現型を見出す過程をスクリーニングといい、興味のある表現型を効率よく検出する方法を各自工夫します。マウスでは自然発生突然変異マウス、X線誘導突然変異マウスなどのコレクションが公開されており(Genetic Variants and Strains of the Laboratory Mouse, Mary F. Lyon et al., 1996, Oxford University Press他)、それらが表現型を見つける母集団となります。また、最近では日本を始めアメリカ、ヨーロッパ各国において化学変異誘導剤であるエチルニトロソウレア(ENU)を用いた大規模突然変異マウス作出プロジェクトが行なわれ、ほぼ変異体マウスが出尽くした感があります。こちらも各プロジェクトのホームページなどを通して公開され、入手が可能です。

主な情報源、入手先

国内: ・国立遺伝学研究所
Japan Mouse/Rat Strain Resource Database
http://shigen.lab.nig.ac.jp/mouse/jmsr/top.jsp
  :・理化学研究所 BioResource Center
http://www.brc.riken.jp/lab/animal/
国外: ・The Jackson Laboratory (Mouse Genome Informatics)
http://www.informatics.jax.org/
  ・International Mouse Strain Resource http://www.informatics.jax.org/imsr/IMSRSearchForm.jsp

遺伝子マッピングとポジショナルクローニング

 目的とする表現型を支配する原因遺伝子が、染色体上のどの位置に存在するかを調べる遺伝学的手法です。表現型を示す系統と示さない系統の間で交配して得られた次世代の多数の個体について、表現型とDNAマーカー(塩基配列の違い)の相関を調べる(連鎖解析と呼びます)ことで表現型を支配する遺伝子に物理的に近いDNAマーカーを決定します。

図1:DNAマーカー


図2:遺伝子マッピング

図2:遺伝子マッピング

 詳細な染色体上の位置が解れば、公開されているゲノム情報を利用して、塩基配列情報を得る事が出来ます。また、マッピングした領域に存在する遺伝子も即座に判明します。このようにマッピングを経由して原因遺伝子を突き止める手法をポジショナルクローニングと言います。

図3:原因遺伝子を突き止める

図3:原因遺伝子を突き止める

因果関係を証明するには・・・

 マッピングした領域に存在する遺伝子の中に、変異体に特異的な塩基配列の変化が検出されました。さてこの遺伝子は表現型の原因遺伝子でしょうか?いいえ、まだこの段階では、候補遺伝子であって原因遺伝子とまでは言えません。
 一般に、表現型が劣性遺伝(ホモ接合体だけで表現型が現れる)の場合は、野生型の候補遺伝子を変異体に導入し、レスキュー実験を行ないます。遺伝子導入マウスに異常表現型の回復が見られれば、この段階で候補遺伝子は原因遺伝子であったと言えます。また、表現型が優性遺伝(ヘテロ接合体にも表現型が現れる)の場合、変異体と同じ塩基配列変化を導入した候補遺伝子を用いてマウスを作製し、これが変異体と同じ表現型を示した時点で原因遺伝子であると言うことが出来ます。この他にも候補遺伝子に既知の変異体がいくつか存在する場合には、それら既知変異体を用いて相補性検定を行なう事により原因遺伝子の確定を行なう事ができます。

ふたつのジェネティクスの違いは?

 遺伝子を操作してその表現型を調べるリバースジェネティクス(別項参照)では、作製した変異体マウスの表現型を見て驚きますが、フォワードジェネティクスでは同定した原因遺伝子を見て驚きます。更にフォワードジェネティクスで見つかる変異のタイプは点突然変異、挿入変異、欠損変異、転座変異と様々なので、新たな遺伝子機能に迫れる可能性を秘めています。現在、変異体マウスは遺伝子の機能を研究する上で必須の道具となり、ヒト疾患の新規治療薬や診断法を開発するためにも有用です。その一翼を担っているのがフォワードジェネティクスなのです。

(文責:田村勝、城石俊彦)