突然変異の種類

生物の遺伝情報を担う染色体上の遺伝子の本体はDNAである。DNAは上に述べたように、自分と同じ分子を正確に、忠実に複製する一方で、体を作る体細胞から生殖細胞が形成されるときには、染色体数は半減するが、受精により両親から受け継いだ遺伝子は確実に受けつがれ、さらに子孫へとその遺伝子は伝えられる。したがって、DNA上にたくわえられた遺伝情報は、世代を経ても安定に子孫に受け継がれて行くものである。

しかし、地球上に生息するすべての生物は、太陽からの紫外線や生物を取り巻く自然環境、または人間が作り出した数多くの有害物質、放射線などにさらされている。このような外的要因の他にも、生物細胞自体の分裂、増殖、DNA複製の際の誤りが長い年月には少なからず起る可能性が考えられる。このような内外の要因によって、遺伝情報に生じた変化を突然変異(mutation)という。突然変異には図1・18に示したように、染色体に起る染色体突然変異(chromosome mutation)と、遺伝子(DNA)に生じた遺伝子突然変異(gene mutation)がある。

図1・18 突然変異の種類

染色体突然変異 数量的変化 倍数性 コルヒチン、高低温
異数性(不分離) 加令、有機水銀
形態的変化 切断 X線、ナイトロジェンマスタード
欠失 X線、ナイトロジェンマスタード
逆位 X線、ナイトロジェンマスタード
転座 X線、ナイトロジェンマスタード
重複 X線、ナイトロジェンマスタード
遺伝子突然変異 塩基の置換 5-プロモウラシル、2-アミノプリン、エチルメタンスルホン酸&
削除 プロフラビン、アクリジンオレンジ、ICR-170
挿入
主鎖切断 エチルメタンスルホン酸、X線

生物には人間が手を加えない自然状態でも、低い頻度ではあるが突然変異が起り、これを自然突然変異(natural mutation)、または偶発突然変異(spontaneous mutation)という。これに対して人間が放射線や化学物質などを作用させて高率に突然変異を起させることもできる。このように人間が手を加えて誘発させた突然変異を人為突然変異 (artificial mutation)、または誘発突然変異(induced mutation)という。突然変異が生物の体を構成する体細胞に生じたものを体細胞突然変異(somatic mutation)といい、がんの初期段階になったり、種々の奇形や疾病の原因になったりするが、子孫に伝わることはない。しかし、これが生殖細胞に起ると生殖細胞突然変異(germ cell mutation)と呼ばれて、その突然変異は子孫に伝わる。

「基礎遺伝学」(黒田行昭著:近代遺伝学の流れ)裳華房(1995)より転載

染色体突然変異

染色体突然変異は染色体異常(chromosome aberration)と呼ばれ、図1・18および図1・19に示したように染色体の数に異常を生じたものとしては、染色体数がゲノムのセットとして倍加した倍数性(polyploidy)や数本の染色体が増減した異数性(heteroploidy)がある。また、染色体の構造的、形態的異常としては、染色体の一部が消失した欠失(deficiency)、繰り返しが起った重複(duplication) 、2本の染色体がそれぞれ切断してつなぎ変った転座(translocation)、染色体が2か所で切断して、その中間部分が逆になって再結合した逆位(inversion)、染色体の一部が切れた切断(breakage)などがある

染色体異常の模式図

「基礎遺伝学」(黒田行昭著:近代遺伝学の流れ)裳華房(1995)より転載

遺伝子突然変異

遺伝子DNAのレベルで突然変異が起ると、DNAを構成する塩基に種々の変化が生じる。DNAの二重鎖の1本の鎖の一つの塩基が、他の塩基に置換した塩基置換(base change)が起ると、そのDNAが複製することにより、置換された塩基をもとに複製した二重鎖の塩基対がもとの塩基対とは別のものとなり、その後このDNAの複製によって生じたDNAはすべて同じ塩基対が置換されたものになる(図1・20)。このような塩基対の置換によって、その塩基対を含むコドンが変化し、翻訳によって生じたアミノ酸も変化する。このようなアミノ酸の変化によってタンパク質の性質が変化したり酵素の活性が失われたりすることもある。

また、一つの塩基が付加されたり、欠失したりすると、DNAの塩基の数自体が変化し、タンパク質合成の際には変化した塩基以下のすべての三つずつの塩基(コドン)の枠組みが変る塩基枠変化(flameshift)となり、タンパク質合成の際にはmRNAのかなり広い範囲にわたってコドンが変化し、翻訳されるアミノ酸が変化して、タンパク質の性質に大きな変化をもたらす。

遺伝子突然変異におけるDNA塩基の変化

「基礎遺伝学」(黒田行昭著:近代遺伝学の流れ)裳華房(1995)より転載

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