優劣の法則に合わない遺伝

メンデルの優劣の法則では、雑種第一代(F1)では、両親のもっている優性の形質のみが現れて、劣性の形質が現れない。しかし中には、F1個体で両親の中間の形質を現すものがある。カイコの幼虫の皮膚の色には黒縞のものと白色の“ひめこ”と呼ばれるものがある。この両者を交配すると、F1個体は両親の中間のうすい黒縞となる。さらにこのF1どうしを交配すると、F2では黒色:中間色:白色が1:2:1の比で分離する。

F1で両親の中間の形質が現れるものとして、マルバアサガオの花の色でもその例が知られており、赤色のものと白色のものとを交配するとF1では中間の淡赤色となり、F2では赤色:中間色:白色が1:2:1の比に分離する。このような中間色を現す例は、遺伝子の組合せがヘテロ型となったときに、優性の遺伝子によって作られる産物が半分になるために起る現象で、メンデルの実験で使用されたエンドウの七つの対立形質では、遺伝子産物が半分になっても、表現型としては全量の場合と同じように現れてきており、遺伝子産物の量とそれが表現型としてどのように現れるかの違いである。

「基礎遺伝学」(黒田行昭著:近代遺伝学の流れ)裳華房(1995)より転載

独立の法則に合わない遺伝

メンデルの独立の法則では、2対以上の異なった対立形質に関する遺伝子は、お互いに他の遺伝子に干渉されることなく、独立して行動する。Mendelが扱ったエンドウの七つの対立形質は、いずれも異なった染色体上に存在し、それぞれの染色体は独立して子孫に伝わるために、独立の法則が成立した。しかし、同じ染色体上に二つ以上の対立形質の遺伝子が存在する場合には、この二つ以上の遺伝子は独立して行動することができない。その遺伝子が存在する染色体と行動をともにし、独立して行動しないで、一緒になって子孫に伝わる。これを遺伝子の連鎖(linkage)という。

アサガオの花の赤色とオレンジ色、葉の緑色と黄色という二つの対立形質の遺伝子は、同一染色体上にあって、花の赤色はオレンジ色に対して優性、葉の緑色は黄色に対して優勢である。この2対の遺伝子は連鎖関係にあるので、独立して行動することはない。花が赤色で、葉が緑色のものと、花がオレンジ色で葉が黄色のものとを交配すると、F1は花が赤色、葉が緑色となる。また、このF1と両親の一方の花はオレンジ色、葉は黄色のものと交配した戻し交雑では、赤色・緑色とオレンジ色・黄色のものが1:1の比に現れてくるはずである(図1・6)

このように、同じ染色体上の二つ以上の遺伝子は、その染色体と一緒になって行動し子孫に伝わるはずである。しかし、時には、ペアをしている2本の相同染色体の間で、乗換え(crossing-over)が起り、遺伝子の組換え(recombination)を起すことがある。上に述べたアサガオの花色と葉色に関して、F1と両親の一方のものとを戻し交雑をした場合には、F1個体から生殖細胞ができるときに花色の遺伝子と葉色の遺伝子の間に1.2%という低い頻度で染色体の組換えが起こり、通常の赤花・青葉:オレンジ色・黄葉が1:1のものの他に、赤色・黄葉やオレンジ色・緑葉という両親にはなかった新しい組換え体が出現する。

「基礎遺伝学」(黒田行昭著:近代遺伝学の流れ)裳華房(1995)より転載

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