遺伝学の歴史

微生物の遺伝学 〜 遺伝子の微細構造

 細菌やファージの遺伝学が進み、大腸菌を宿主とするT4ファージを用いて、遺伝子の微細構造を明らかにする実験が行われた。これはBenzer (1955) が、T4ファージとその突然変異体であるγIIという系統を用いて行ったものである。正常の T4 ファージは大腸菌のK株細胞の上にまくと、細菌の細胞を溶かしてプラーク (溶菌班) を形成する。ところがγIIファージは大腸菌K株の上ではプラークを形成することができない。このγIIの突然変異を8種類とって、その2種類ずつを一緒にして大腸菌K株にまくと、時にはプラークを形成するものもある。これは2種類のγII系統がγII遺伝子の中の異なった領域に突然変異を起しており、混合感染させた大腸菌の菌体内で染色体の組換えを起し、遺伝子の欠失した領域を互いに補い合って正常のファージを生じ、これがプラークを作ったものと考えられた。

 このことからBenzerは一つの遺伝子と考えられるものも、さらにいくつかの小単位に分けられることがわかり、つぎのような単位を提唱した。
(1)レコン (recon) : 染色体の乗換えを起すことのできる最小単位で、その距離は0.01〜0.02%くらいである
(2)ミュートン (muton) : 突然変異を起すことのできる最小単位で、レコンより少し大きく、0.05%くらい。
(3)シストロン (cistron) : レコンがいくつか集まってできた単位で、1種の生理的単位。一般に遺伝子と考えられるのはこのシストロンに相当する。

T4ファージのγII遺伝子座における各突然変異の分布

T4ファージのγII遺伝子座における各突然変異の分布を示すと図1・12のようになる。

「基礎遺伝学」(黒田行昭著;近代遺伝学の流れ)裳華房(1995)より転載