遺伝学とは

DNAの組換え 〜 4.遺伝子の数を増やすための遺伝子増幅組換え機構

 遺伝子の増幅とは、ある特定の遺伝子の数が増える現象で、その遺伝子産物が多量に必要な時に観察される環境適応反応の一つです。例えば害虫に対して徐々に殺虫剤が効かなくなる、あるいは癌細胞に対して制癌剤の効果が徐々に低下するのは、それらの細胞内で薬剤(この場合には殺虫剤と制癌剤)に対する耐性遺伝子が増幅して、薬剤の効果が打ち消され、細胞が耐性になってしまったためです。またリボソームRNA遺伝子など、通常の生育に多量の産物が必要な遺伝子も増幅によりその数が増えています。この遺伝子増幅反応も組換えを利用しています。ここでは増幅の機構が最もよく研究されているリボソームRNA遺伝子(rDNA)の例を紹介します。この遺伝子の場合には、遺伝子のすぐ後ろに複製を阻害し組換えを誘導する配列があります。ただし通常の修復組換えと違うところは、阻害点で切断された末端がずれて(後戻りして)隣の相同領域と組換えて修復される点です。そのため一度複製された遺伝子が再度複製されることになり、コピー数が増加するわけです(ムービー参照)。

 また遺伝子の増幅はその産物量を増やすだけでなく、余分なコピーを染色体上に持たせることで、新しい遺伝子を創り出す原動力ともなってきました。つまり生物が単純な構造からより複雑な構造へと進化過程で、様々な新しい遺伝子登場してきましたが、その多くが遺伝子増幅により増えたコピーが変化して創られたと考えられています(進化、遺伝子重複の章参照)。


[ムービーの説明]
 リボソームRNA遺伝子(rDNA)は100コピー以上がタンデムに並んで存在する増幅遺伝子です。この遺伝子の増幅はDNA複製時に起こります。複製開始点から始まった2つの複製フォークの内、右方向に進行する複製フォークは複製阻害点で止められ、そこでDNAの切断を生じます。切られたDNAは後戻りして左隣のユニットの相同配列と組換えを起こし、そこで複製を再開します。そのため一度複製されたユニットが再複製されることになり遺伝子のコピーが増加していきます。

原図、文責:小林 武彦