遺伝学とは

ゲノムインプリンティング 〜インプリンティングと生殖細胞

 インプリンティングの最初の段階は、雌雄の配偶子形成過程で父親由来、母親由来のインプリントが刷り込まれることである(図3)。配偶子形成途中の生殖細胞が父親型・母親型のインプリントを獲得しているかどうかは、核移植や顕微受精の技術でこれらの細胞の核と未受精卵の核を組み合わせ、それらの発生能を調べると推定できる。このような研究から、母親型インプリントのかなりの部分が卵形成過程のうち第一減数分裂前期の卵成長期(一次卵母細胞)に獲得されることがわかった。また父親型インプリントは精子形成過程の減数分裂以前に刷り込まれている。

 一方、初期の発生過程で生殖系列に入った細胞では、新たな刷り込みが起こる前に両親由来のインプリントが消去される(図3)。では始原生殖細胞はどの時期までインプリントを保持し、どの時期に消去または書き換えが始まるのだろうか?8.0〜8.5日齢胚の移動期の始原生殖細胞から樹立されたEG(embryonic germ)細胞は、正常胚とキメラを形成する能力を持ち、正常な全分化能を示す。これは移動期の始原生殖細胞がインプリントを保持していることを示唆する。しかし11.5?12.5日齢胚の始原生殖細胞から樹立したEG細胞は、キメラ形成実験において異常な表現型を示し、すでにインプリントの消去または書き換えが始まっている。したがって始原生殖細胞が生殖隆起に達し、性分化が始まるころには、新たなサイクルに入ると考えられる。

 2004年、国立遺伝研の佐々木研究室は、Dnmt3aと呼ばれるメチルトランスフェラーゼをノックアウトしたマウスの解析結果から、この酵素が雌雄の配偶子形成過程で父親型・母親型のインプリントを刷り込んでいると結論した(Kaneda et al. Nature 429, 900-903 (2004))。Dnmt3aは非メチル化状態のDNAに新たなメチル化を導入する活性をもつことから、精子・卵子から受精を経て伝達されるインプリントの正体はDNAメチル化であることが確実となった。このように、インプリンティングの機構が少しずつ明らかになりつつあるが、どうして雌雄の配偶子形成過程で異なるインプリントが生じるのか(つまり、どのようにして異なる遺伝子群がメチル化されるのか)は未だ不明である。

佐々木裕之:「現代医学の基礎第5巻,生殖と発生」(岩波書店)第9章に加筆(文責:佐々木裕之)