遺伝学とは

ゲノムインプリンティング 〜インプリンティングの機構

  図3には各世代の発生過程で起こるインプリンティングのサイクルを模式的にしめした。インプリンティングを受ける染色体領域または遺伝子は、配偶子形成(gametogenesis)過程で精子(父親)由来か卵子(母親)由来かの「しるし=インプリント(imprint)」を刷り込まれる。このインプリントの違いは受精を経て、同一の核に入っても維持され、さらに複製・細胞分裂を繰り返しても消失しない。そして体細胞ではインプリントにしたがって父性または母性対立遺伝子特異的な発現が起こる。一方生殖系列では始原生殖細胞で一旦インプリントの消去が起こり、つづいて配偶子形成過程で新たなインプリントの獲得が起こる。

 インプリンティングのサイクルは、DNA配列に変化を与えないエピジェネティックな機構で回転する。そのような機構の代表はDNAメチル化(DNAmethylation)である。シトシンのメチル化は哺乳類ゲノムDNAの唯一の生理的な修飾であり、DNA(シトシン‐5)‐メチルトランスフェラーゼが2塩基配列CpGのシトシンを認識して5‐メチルシトシンを生成する(図4)。CpGに相補的な配列はやはりCpGであるから、2本鎖DNAは両鎖にメチル化の標的をもつ。

 哺乳類は3種類のDNA(シトシン‐5)‐メチルトランスフェラーゼを持つ。そのうちDnmt1と呼ばれるメチルトランスフェラーゼは主に体細胞で発現し、一方の鎖がメチル化されたヘミメチル化(hemimethylated)CpGを優先的に認識し、相補鎖上のシトシンをメチル化する(維持メチル化、maintenance methylation)。この酵素の活性により、哺乳類の体細胞はDNA複製を経て同じメチル化状態を維持できる(図4)。またDNAメチル化が遺伝子発現の制御機構として働くことは、X染色体の不活性化をはじめ多くの例が示すとおりである。

 インプリンティング遺伝子のメチル化状態を調べると、実際に父性・母性対立遺伝子の間に差が見られる。さらにDnmt1をノックアウトしたマウスの体細胞で、3つの遺伝子のインプリンティングが変化したことから、メチル化のインプリンティングへの関与が明確になった。DNAメチル化はヒストン蛋白質の修飾などのエピジェネティックな機構と協調してインプリンティングを制御すると考えられている。

図3:インプリンティングのサイクルを示した模式図。ここでは精子(父親) 由来か卵子(母親) 由来かのインプリントを異なるパターン(色)で示す。

図4:シトシンのメチル化(左)と維持メチル化(右)。

佐々木裕之:「現代医学の基礎第5巻,生殖と発生」(岩波書店)第9章に加筆(文責:佐々木裕之)