遺伝学とは

ゲノムインプリンティング 〜インプリンティングを受ける遺伝子

 1991年、インプリンティングを受ける遺伝子の最初の例がノックアウト実験により偶然発見された。この遺伝子はマウスのインスリン様成長因子II(Igfz)で、その欠損についてホモ接合体の個体は子宮内の成長が阻害され、出生時体重が正常の60%ほどしかない。ところがヘテロ接合体を調べると、変異を母親から伝達された場合は正常で、父親から伝達された場合は欠損型であった。Igfzは父親由来の時だけ発現するインプリンティング遺伝子であり、これからこの伝達形式が説明できる(図2)。またこの遺伝子は第7染色体遠位部にある。この発見以来、ヒトとマウスで次々とインプリンティング遺伝子が同定され、現在(1998年)ではこのような遺伝子の数は30あまりに及ぶ。

 インプリンティングを受ける遺伝子のどちらの対立遺伝子が発現するかは遺伝子ごとに決まっている。しかし常に対立遺伝子特異的な発現を示すわけではなく、組織や発生段階に依存したインプリンティングも観察される。たとえば上述のIgfzは、脳軟膜や脈絡叢では両方の対立遺伝子が発現する。また同一組織内で細胞ごとにインプリンティング状態が異なるモザイク状の(mosaic)インプリンティングや、個体ごとに異なる多型的(polymorphic)インプリンティングも報告されている。

  インプリンティング遺伝子には次のような共通点がある。(1)ゲノム上でクラスターを形成する傾向がある。(2)遺伝子産物の機能は成長因子、ホルモン、膜表面受容体、転写因子、酵素など様々だが、細胞の増殖や成長を促進するものについては父性対立遺伝子、逆に増殖を阻害する遺伝子は母性対立遺伝子が発現する傾向にある。(3)いくつかの例外を除いてヒト・マウス間でインプリンティングが保存されている。

図2:マウス第7染色体遠位部の母性ダイソミー(右)と正常な胎仔(左)。この領域にはインプリンティングにより父性対立遺伝子だけが発現するインスリン様成長因子II遺伝子があり、この遺伝子の発現がない母性ダイソミーは対照より小さい。正常な胎仔はこのまま成長するが母性ダイソミーは子宮内致死である。(ダイソミーの目に色素がないのはマーカー遺伝子によるもので、ダイソミーによる異常ではない。)

佐々木裕之:「現代医学の基礎第5巻,生殖と発生」(岩波書店)第9章より引用