遺伝学とは

DNA人類進化学 〜 3.ヒトがサルと分かれた日

ヒトはいつチンパンジーと分かれたか

 さて、この分子進化時計を応用することにより、種の間で観察される塩基置換数(遺伝距離)から、生物の種が分かれた年代を推定することができる。ここではミトコンドリアDNAの全塩基配列をもとに、非同義置換数とRNA遺伝子における置換数を求め、それに基づいて遺伝距離を計算し、系統樹を作成した(図12)。

系統樹

 この系統樹から読み取れることは、まずオランウータンが最初に枝分かれしていることである。その後ゴリラが枝分かれし、続いてヒトと二種のチンパンジーの共通祖先が分岐し、最後にチンパンジーとピグミーチンパンジーが枝分かれしている。つまり、現存する動物でヒトにもっとも近縁なのは、二種のチンパンジーということになる。

  系統樹の各枝の長さは遺伝距離に相当し、それぞれの種が分岐した絶対年代にほぼ対応する。そしてオランウータンの分岐年代(すなわち一三〇〇万年前)を用いることによって、各種の分岐年代を推定することができる。その結果、ゴリラの分岐年代が六五六プラスマイナス二六万年前、ヒトの分岐年代が四八七プラスマイナス二三万年前、チンパンジーとピグミーチンパンジーの間の分岐年代が二三三プラスマイナス一七万年前となった。

  ここで各年代の推定値についている誤差(プラスマイナスの後の数字)に注目してもらいたい。十数万から二十数万年である。したがって、推定した各年代どうしは決して重なり合うことはない。このように小さな誤差しか現れないのは、ミトコンドリアDNAの全塩基配列を決定し分析ができたからである。これにより、ヒトとチンパンジーは約四九〇万年前に分岐したと結論してさしつかえないだろう。

  それにしても、一九六〇年代にサリッチやウィルソンがヒトとアフリカ類人猿の分岐を約五〇〇万年前としたのは、ほぼ正しかったのである。さらに宝来らによる分析から、アフリカ類人猿のなかではゴリラがまず分岐したことが、はっきりと示されたのである。

宝来聰著「DNA人類進化学」(岩波科学ライブラリー52)より引用