遺伝学とは

DNA人類進化学 〜 3.ヒトがサルと分かれた日

分子進化時計

 一九六〇年、エミール・ズッカーカンドルとライナス・ポーリングにより、生物進化に関する重要な発見がなされた。彼らは、比較した生物間で観察されるアミノ酸の置換数と、化石から知られている生物の分岐年代との間にきれいな直線関係があることを見出した。分子進化時計の発見である。

  当時はアミノ酸配列が用いられたが、この原理はもちろんDNAの塩基配列にも応用することができる。実際、図11(c)でみられた二種類の異なった塩基置換数の直線関係は、これからの置換がヒト上科の進化過程においてほぼ一定の割合で蓄積してきたことを示している。したがって、これを分子進化時計に応用できる塩基置換数と考えることができ、種間の遺伝距離の目安にすることができる。

  ここで特に重要なことは、オランウータンとの比較にまで直線性が保たれている点である。現存している生物間のDNAの比較から、系統関係を推定することはそう困難ではないが、そこから個々の種が分岐した年代を割り出すには、基準となる絶対年代を必要とする。この章のはじめで述べたように、ラマピテクスという化石は、最終的にオランウータンの系統につながることが明らかとなった。このラマピテクスの化石の絶対年代を、オランウータンの種としての分岐年代として用いることができるのである(オランウータン以外の類人猿では、その直系の先祖と思われる化石はまったく見つかっていない)。ラマピテクスには一三〇〇万年前という絶対年代が与えられているので、オランウータンとアフリカ類人猿の分岐にこの年代を当てはめることが可能である。

宝来聰著「DNA人類進化学」(岩波科学ライブラリー52)より引用